
今回は、先の第36次海外公演―イタリア で『春の祭典』生贄役デビューを果たした榊優美枝の登場です。カリアリ、バーリ、ボローニャ、リミニの4都市を巡った今回のツアーの手応え、ベジャール作品への思い、2025年の抱負など、いろんな話題が飛び出しました。
──ちょっと前のことになりますが、イタリア公演はいかがでしたか! 今回は初めての都市が多かったそうですね。
榊優美枝 2016年のイタリア・ツアーでカリアリには行っていましたが、他の都市は私は今回が初めてでした。当時はまだ3年目くらいで出番も少なかったのですが、今回は『春の祭典』、『ラ・バヤデール』影の王国──これはコール・ドとソリストの2役を日替わりで踊って、さらに『小さな死』にも出演と、かなり慌しかったですね。海外だと気候が全然違うし、身体的に調節がうまくできるかどうか心配で、当初は不安な気持ちでいっぱいでした。でも、(斎藤)友佳理さんから「『春の祭典』の生贄をやってもらいたい」と声をかけてもらい、前向きに取り組むことにしたんです。挑戦してみたいと思っていた役でしたから。ちょっと弱腰のところもあったけれど(笑)、これを逃したら次はいつできるかわからないので、「頑張ります」とお返事しました。
──日本でジル・ロマンさんのリハーサルがあったとか。
榊 本当に光栄なことです。まさか直接教わる機会があるなんて思ってもいませんでした。『ザ・カブキ』の高槻公演のとき、生贄に配役されていたダンサーの中で私だけがバレエ団に居残りだったので、ジルさんのご厚意でマンツーマンでのリハーサルが実現しました。短い時間でしたが、こんなに凝縮された時間ってあるのかなと思うくらい、学ぶことの多い、充実したリハーサルでした。頭フル回転で汗だくで(笑)。ジルさんが実際に動いて見せてくださるのですが、それが本当にすごくて! 全然現役!! 普通にずっと見ていたいなって思いました。実はこのとき、ジルさんはこの作品を初演のときの『春の祭典』に戻したいとおっしゃっていたんです。それが、これまでずっと見てきた『春祭』とは結構違っていて......。
──初演というと、1959年!? 当時の『春祭』のことを、ジルさんはどのように説明されていたのですか。
榊 東京バレエ団がこれまで上演してきた『春祭』の女性の生贄は、女性たちのリーダーで、男性と対峙する中でもその強さがすごく強調されていました。でも作品本来の表現としては、そうではなかった。彼女は女王としての芯の強さはあるけれど、男性に対する恐れとか、弱さも表現すべきだとアドバイスをいただいたんです。ひたすら強いだけではだめだと。だから、脚をすごく高くあげてみせるとか男性的な大きな動きとかはできるだけ廃して、より女性らしく見えるようなニュアンスを大事にするんだと。当時の映像も見せてくださいましたが、生贄の女性の女性らしい動き、身体つきがとても印象的。私は救われたな、と思いました。私自身、決して強いタイプのダンサーではないし、これまで上演してきた通りの生贄だったら、「私にはできない」と迷い続けたと思います。
──ジルさんの教えを受けてのぞんだ舞台の手応えは?
榊 カリアリで2回、バーリで1回、ボローニャで1回、計4回踊らせてもらいました。カリアリ公演は、初めてなのにいきなり生のオーケストラの演奏だったので、カウントと振りを間違えないようにと気にするあまり、硬くなってしまったかなと心配でしたが、先生方には良かったと言ってもらえて安心しました。その後の舞台では、もっとエネルギーを込めようとか、女性らしくとか、舞台に上がるたびに考えて取り組むことができました。1回だけの公演だったらきっと、やりきれなかったという思いを残したままま終わってしまったかもしれません。
今回の『春祭』で感じたのは、内面の捉え方、ちょっとしたニュアンスの違いで、見えてくるもの、作品全体の雰囲気まですごく変わってきてしまう、その重大性。とくにベジャールさんの作品は振付が言葉でもあるので、考えすぎず、作りすぎず、むしろ何も考えないでのぞんだほうが伝わると感じました。今回はジルさんに身体の動きから細かいニュアンスまで、事細かに教えていただいたからこそ、掴めたものがあったと思います。このタイミングで取り組むことができたのはすごく幸運でしたね。でも、厄介だったのは斜舞台です。
──海外公演あるあるの、傾斜のついた舞台ですね。
榊 今回経験した斜めの舞台は、バーリのペトゥルッツェッリ劇場での『春祭』と、リミニのアミントーレ・ガッリ劇場での『ラ・バヤデール』"影の王国"でした。とくに大変だったのは"影の王国"。カリアリでもボローニャでも上演したのに、どういう巡り合わせか私が第2ヴァリエーションを踊る日が斜舞台のリミニでの公演。斜めといってもたった3度。たったの3度!なのに、バランスの取り方が全然変わってくるんです。たとえば回転のときは、勢いで回れることは回れるけれど、降りるときが要注意。平地のつもりで降りたら、下手するとひっくり返ってしまいます。そんな状況でも果敢にのぞんだ"影の王国"でしたから、ソリストもコール・ドも、皆に「勇者だ!」と讃えられました(笑)。皆、見守ってくれていたんですね。『小さな死』でも、途中で突然新しいパートナーと組むことになって大変ではありましたが、違った雰囲気を味わうことができたのは新鮮でした。
──さて、今度はベジャールの『くるみ割り人形』です!
榊 7年振りの上演ですよね。大好きな作品で、私にとってバレエ団を続けるモチベーションともいえる作品です。チャイコフスキーのあの音楽が、最後の最後まで物語を導いてくれますし、母へのオマージュをバレエにするというベジャールさんの視点もすごく独特。それを全幕で、しかも『くるみ割り人形』でという、組み合わせが衝撃的ですよね。
──母という役柄に初挑戦、いまの時点でどのように取り組もうと考えていますか。
榊 難しいですよね......。私には子供はいないし。でも、少し前にモーリス・ベジャール・バレエ団のエリザベット・ロスさんとお話する機会があったのですが、彼女は、あの役は母だけど普通の女性でもあって、ちゃんと自身も楽しんでいる、いろんな部分があるんだとおっしゃっていたんです。確かに、って思いました。リハーサルにはジルさんがいらっしゃるので、たくさん学ぶことができると思います。
──ジルさんは出演もされるそうですが。
榊 これまで飯田(宗孝)先生が演じられていたところをジルさんが新しくされるそうです。先生が亡くなられたいま、正直、誰が演じてももやっとする部分が残ると思っていたのですが、ジルさんであれば!と、皆喜んでいます。どんなふうになるのかまだわからないので、楽しみですね。
──では最後に、来年の抱負を!
榊 2024年は目まぐるしく過ぎてしまって、もう12月! 来年はこれまで経験したことのある作品を中心に取り組むので、もっともっと深めていけたらと思っていますし、一つひとつの役を大切に演じていきたいですね。来年もどうぞよろしくお願いいたします!