
『眠れる森の美女』開幕直前の今回のブログは、この公演で東京バレエ団デビューを果たす二山治雄の登場です。2014年のローザンヌ国際バレエコンクールで第1位に輝き、その後パリ・オペラ座バレエ団の契約団員として活動、2020年からはフリーランスとして多彩に活躍してきた彼に、これまでの経験や東京バレエ団での新生活について、いろいろ語ります。
──4月に入団して約1カ月。東京バレエ団での日々はいかがですか。
二山 正式な入団は4月1日でしたが、『眠れる森の美女』に出演することが決まっていたので、3月からクラスに参加していました。約5年間、フリーランスとして活動していたので、こうした大きなバレエ団での日々はとても新鮮に感じます。
──バレエファンの皆さんは二山さんの活躍についてご存じの方も多いと思いますが、ローザンヌ国際バレエコンクール以後、様々な経験をされてきたのではないでしょうか。
二山 ローザンヌで奨学金をいただき、サンフランシスコ・バレエ団のスクールに留学しました。卒業後は、まだプロになるという決心がつかなかったのと、休学していた高校をちゃんと卒業したいという思いがあり、一旦帰国しました。高校は調理師免許が取れるコースだったのですが、せっかく2年半学んできたのだからと、復学して、卒業して、免許もちゃんと取りました!
2015年、高校の卒業作品を前に(本人提供写真)
──その後あらためてプロの道へ?
二山 2016年の夏にパリ・オペラ座バレエ団のオーディションを受けているのですが、その時は特に進展はなく、縁がありワシントン・バレエのスタジオカンパニーに入りました。その後オペラ座から契約の話をいただき、2017年の1月から4月にパリ・オペラ座でアンダースタディなどの経験をさせていただき、その後またワシントンに戻り、その年の夏にまたオペラ座のオーディションを受けて2017年のシーズンから契約団員になりました。ちょっとややこしいですね(笑)。
── ご自身にとって、パリ・オペラ座での経験はどのようなものでしたか。
二山 夢みたいな感じでした。その時は必死でしたから、いろんなことを得られたと感じるようになったのは、帰国して時間が経ってからのことです。あの時間がなければ、僕はいまここにはいないだろうなと感じています。たとえば、世界バレエフェスティバルに出演するようなダンサーと一緒にクラスを受けたりリハーサルをしたりして、吸収することがあった。また、パリ自体が芸術にあふれた街ですから、休日に普通に散歩するだけでも感性が磨かれるような感覚に。ただ、当時は自分の居場所がないという感じもあった。多くのダンサーがオペラ座のバレエ学校出身で、まるでファミリーのようでしたから、そこに外部から来た僕がポツンと(笑)。いま、東京バレエ団で一緒になりましたが、中島映理子ちゃんも当時オペラ座にいたので、心強かったですね。
──パリ・オペラ座ではどんな作品に取り組まれましたか。
二山 古典でいうと、ヌレエフ版『白鳥の湖』のナポリを踊りました。『シンデレラ』にも出演しましたが、コンテンポラリーの作品に携わる機会が多かったですね。ジェームス・ティエレという振付家の新作では、1着30万円くらいするというゴールドの衣裳を着て、ガルニエ宮の中を這いつくばって、最終的には舞台に上がって──(笑)、という経験を。斬新な作品でしたが、すごく楽しかったです。クリスタル・パイトの『シーズンズ・カノン』も印象的でした。文字通り振付がカノンのようになっていて、群舞の波打つような動きが独特です。最初に見たとき、あれはその都度、それぞれの感覚で動いているのだと思っていたのですが、実は、厳密なカウントに基づいて動いている。しっかり練られていて、数学的なんですよね。驚きました。
──帰国されたのは2020年のはじめでしょうか。
二山 2019 年の12月31日まで舞台があって、その後冬休みに入ることになっていたので、帰国しました。次の契約は3月からでしたから、ゆっくりとしていたんです。そうしたらコロナ禍に突入、3月以降の舞台は全部キャンセルになり、そのまま......でしたね。でも、僕自身、いろいろ考えている時期でもあったんですよね。
──今後のキャリアについて、ですね。
二山 2018年のオペラ座入団のためのコンクールで1位を取ることができたのですが、その年に入団できたのは女性だけ。評価してもらえたのはとても光栄なことでしたが、もっと違うところに行くべきなのかな、と考えていました。コロナ禍の間、何かやりたいことをやろう!と思って、アルバイトをしました。近場のスーパーでレジ打ちや品出しの仕事に携わりました。それがすごく新鮮で、楽しかったんですよね。働いている、ということが実感できた。それまでは、バレエと職業が結びついていなかったんです。こうした経験を通して、バレエへの向き合い方が変わったと感じます。その後、介護施設で事務の仕事とか介護のサポートも経験したのですが、コロナ禍で大掛かりな催しものができなかったので、入所者の皆さんの前で踊ったこともあるんですよ!
──コロナ禍が落ち着くにつれて公演も増え、フリーランスとして舞台に立つ機会も増えました。
二山 バレエ以外のジャンルの方々とコラボしたり、ファッションショーで踊ったり、いろんな経験をさせていただきました。そんな中で、バレエに携わるなら全幕作品に、という思いを募らせていました。ゲストとして全幕作品に出演させていただく機会はありましたが、カンパニーの一員として参加できたらなと思っていたんです。バレエ団では毎日、クラスを受けられることも大きなメリット。一緒に向き合う仲間がいるということはとても大きいことですね。
──東京バレエ団に興味を持たれたきっかけは?
二山 スタジオなどの環境も素晴らしいですし、上演している作品がいいですよね。初めて観た東京バレエ団の公演は『ザ・カブキ』。古典以外の全幕のオリジナルを上演しているのはすごいこと。僕もこうした作品に参加できたら、と思いました。自分の居場所を見つけた? そう思います!
──『眠れる森の美女』では第3幕で青い鳥を踊ります。
二山 プラチナの精も踊ります。青い鳥は、たぶん7、8年ぶりに踊るのですが、僕としては人間でない役を踊ることが多く(笑)、自由に、と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、自分の個性を活かせるのではないかなと感じます。東京バレエ団の『眠れる森の美女』は、スタンダードを大事にしていると同時に、随所に遊びがあるところに魅力を感じます。第3幕は仮面舞踏会、宮廷の舞踊手たちが童話の登場人物になって踊りを見せるという設定がとても面白いですね。
──『眠れる森の美女』のあとは『ジゼル』、『ザ・カブキ』と続きます。
二山 入ったばかりでこんなに舞台に立たせてもらえると思っていませんでした。フリーランスで活動していた頃は、すごく忙しい時もそうでない時もありましたが、こうしてコンスタントに舞台に携われるのは、ダンサーとしてとてもありがたいことだし、自身で伸び代を実感することができると期待しています。
──どんなダンサーでありたい、と考えていますか。
二山 ......それが、野望といえるものが全くないんです(笑)。そういう感じでずっときてしまいました。やれることは何でもやりたいのだけれど、目標を設定してしまうと、それを達成したらそこがゴールになってしまうような気がするんです。こうと決めつけず、自然の流れに任せる──あ、全然質問に答えていませんね(笑)。表現については、毎回、難しいなと感じています。スタジオで練習している時って、どうしてもテクニックに気を取られてしまうので、表現に関してはスタジオの外で深めたほうがいいなと感じています。普段、外を歩いている時、料理をしている時に、「あ、こういうふうにしよう」と思いついたりするんです。
──やはり料理!
二山 しますね(笑)。高校では和食、中華、西洋料理、製菓と、全ジャンル学びましたが、実はお菓子作りが一番好きです。チーズケーキをよく作るのですが、ちょっと凝ってみたくなる。杏を煮て入れたりもします。もちろん、オーブンレンジは絶対使うと思って、買いました(笑)。料理はストレス発散の手段でもあります。作り置きができないたちなので、リハーサルの合間に、今日は何を作ろうかなと考えたり、帰りにスーパーに寄って食味を買ったり。リハーサルでどんなに疲れていたとしても、そこはまた別ですね。健康に気を使ってやっていることといえば、甘酒を作ること。麹を買ってきて、お粥を混ぜて発酵させる。そこだけは、自分でも誇っていいかなと(笑)。
──では、読者の皆さまにメッセージを!
二山 僕は、あまり自分で積極的に飛び込んでいったり、突き進んでいったりするタイプではないのですが、そんな中でも、東京バレエ団への入団は、珍しく、自分で決心して突き進んだことなんです。お客さんに存分に楽しんでもらえる舞台をつくり、喜んでもらえるダンサーでいたいと取り組んでいますので、どうぞ、温かく見守っていただけたら嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします。