
昨年はほぼ毎月舞台への出演が続いて、大忙しだったゲスト・プリンシパルの上野水香。
今年3月には2年ぶりの〈上野水香オン・ステージ〉を控えている彼女に、昨年を振り返りながら、今思う2026年の抱負や"オン・ステージ"への意気込みを聞きました!
photo: Shoko Matsuhashi
――昨年(2025年)はかなり忙しい一年だったと思いますが、いかがでしたか?
休む間もなく一年が過ぎました。1月はマチュー・ガニオさんのスペシャル・ガラ、2月にアトリエヨシノ主催のマラーホフ版『白鳥の湖』、さらに3月には私の冠公演〈ジュエルズ・フロム・ミズカ〉......と、怒涛の日々でしたが、実はいろいろなことが重なって苦しい時期だったのです。
とくに"ジュエルズ"のときは苦しかったのですが、出演してくれるバレエ団のみんなが「いつから練習しましょうか?」と声をかけてくれて、それが泣けるくらい嬉しくて......。最終的にはお客さまが総立ちで拍手してくださった瞬間に、「私はまだやれる!」と思えました。お客さま、協力してくれたみんな、そしてバレエが私を救ってくれたと思います。
――夏以降は本調子に戻られましたか?
そうですね、町田樹さんと高岸直樹さんとご一緒した〈パ・ド・トロワ〉も、おふたりの力を借りながらのびのび踊れました。6月には『ザ・カブキ』、9月には『M』と、ふたつの素晴らしいベジャール作品も踊ることができました。どちらもベジャールさんが東京バレエ団のために創ってくださった作品で、バレエ団の個性であり、宝であることを再確認しました。世界中で『ザ・カブキ』を上演してきたからこそ、東京バレエ団はその名を轟かせることができたわけです。去年は三島由紀夫生誕100周年の記念イヤーだったこともあり、三島作品について深く掘り下げることもできました。
『ザ・カブキ』より(photo: Shoko Matsuhashi)
――去年は『ジゼル』も2度、踊られていますが、久しぶりのジゼルでしたね。
8月は清里フィールドバレエ、10月にはさがみ湖野外バレエフェスティバルで、『ジゼル』を踊らせていただきました。ジゼルを踊るのは13年ぶりだったんです! 改めて、私にとって大切なレパートリーのひとつだと確信したことが、今年の〈上野水香オン・ステージ〉での上演につながっています。どちらも野外だったので、一幕では本当にその場でジゼルが暮らしているような気がしました。体でジゼルを感じられたので、狂乱の場では髪の毛一本一本にすら、哀しみが宿っているという感覚でしたね。
――13年ぶりに踊って、ご自身のなかでのジゼル像にも変化がありましたか?
一般的には、ジゼルは第1幕でアルブレヒトに裏切られたのに、第2幕では彼を許すという流れが多いと思うのですが、私のジゼルはかなり純粋で......。裏切りを知った途端、ショックで心臓が止まってしまったので、ジゼルは彼を恨んだわけでも嫌いになったわけでもない。亡くなったあともアルブレヒトへの愛はより大きく強固なものになっているので、彼が目の前に現れたら純粋に守りたいわけです。許しではなく、愛しているという気持ちで動いているのだと考えると、その魂の尊さを感じられました。
『ジゼル』第2幕より(photo: Kiyonori Hasegawa)
――11月には東京バレエ団『ドン・キホーテ』がありました。ワシーリエフ版『ドン・キホーテ』でのキトリ役を東京バレエ団で踊る最後の舞台ということで、駆けつけたファンも多かったと思います。
この上なく楽しい時間でした! ゲスト出演してくれたヴィクター・カイシェタ(ウィーン国立バレエ団プリンシパル)はブラジル出身で、生まれながらのラティーノ。それもあって彼はバジルそのもので、私も自然体のまま舞台に立てて、ただただキトリとして生き抜いたという感覚です。ヴィクターといると、お父さんに結婚を反対されても何も思わないんですよ(笑)。何があっても重くとらえない、ネアカなラティーナ。ヴィクターと私は親子でもおかしくない年齢差なのに、一緒に踊ると自然と男女の感じになれて、本当に楽しかったです。彼と踊ったことでアップデートされた感じがしたので、また一緒に踊りたいですね。ヴィクターも私と踊って「人生観が変わった」と言ってくれました!
『ドン・キホーテ』より(photo: Shoko Matsuhashi)
――今年3月は2年ぶりの〈上野水香オン・ステージ〉があります。今回はフリーデマン・フォーゲル(シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)がゲスト出演しますね。
フリーデマンとは、モナコのプリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミーの卒業生という共通点があります。私が卒業後に彼が入学したのですが、当時の校長だったマリカ(・ベゾブラゾヴァ)から「水香に組んでもらいたい、フリーデマンという素晴らしい子がいるの」と何度か電話をもらったのに、なかなか実現しなかったんです。やっと実現したのは2009年、東京バレエ団で『ジゼル』を一緒に踊ったとき。でもそれ以降もタイミングが合わなくて、今回やっとまた一緒に踊れることになりました。
――実際に一緒に踊ってみて、いかがでしたか?
フリーデマンは手足が長いので、彼と組むと私は思いっきり手足を伸ばせてのびやかに踊れますし、雰囲気も合うものを感じています。今回、一緒に『白鳥の湖』第2幕のパ・ド・ドゥを踊りますが、どんな白鳥になるのか楽しみですね。もうひとつ一緒に踊る『レダと白鳥』はフリーデマン自身から提案のあった作品です。私は踊ったことがありますが、彼にとっては初めての作品。上半身裸に白タイツという装いの彼は美しいこと間違いないので、私とどんな化学反応を起こすかが楽しみです!
――ベジャール振付の『ルナ』は去年、一度踊られているのですよね?
"ジュエルズ" で初めて踊りました。実は以前、(ウラジーミル・)マラーホフさんに勧められたことがあったのですが、自信がなくて断っていたんです。でも、踊ってみたら大好きになりました。暗闇のなか、登場する白の総タイツの女性は月を表していて、その月はひとつしかない......とても孤独な存在で、それは"ジュエルズ"のころに私が抱えていた孤独とリンクして切なくて。でも、その悲しみを乗り越えて美しく輝く月の存在に感化されて、毎日ひとりでリハーサルをしていました。『ルナ』という素敵な作品に身を委ねることで、自分が慰められる気がしたんです。
『ルナ』(photo: Hidemi Seto)
――ほかの演目も楽しみなものが多いですね!
今回も"オン・ステージ"に欠かせない『ボレロ』を踊りますが、『ボレロ』は『ルナ』は真逆のパッションを持つ作品なので、対照的な組み合わせになります。この2作品を同時に踊るとどうなるだろう、と考えるとワクワクしますね。 それから、フリーデマンが久しぶりに『モペイ』を踊るのも楽しみですね。無駄ひとつない美しい体を使った、彼の真骨頂ともいえる作品だと思います。あと私は『ジゼル』第2幕を柄本弾さんと踊るので、去年の公演で得た感覚をさらに深めていければ。東京バレエ団のコール・ド・バレエと一緒に踊れるのも嬉しいです! それから地方公演のみですが、ブラウリオ(・アルバレス)が一昨年、振付けてくれた『ブエノスアイレスの夏』も踊ります。タンゴ風の曲でおしゃれな雰囲気で、私の好きな世界観。白鳥やジゼルとはまた違う私の面をお見せできれば。
『ボレロ』(photo: Shoko Matsuhashi)
――2026年が始まりましたが、今年の目標を教えてください。
年明けにオンエアされたドラマに、ちょっとした役ですが出演しました。以前から、バレエ以外の手法で"演じる"ことをしてみたかったので、夢がかないましたね。また機会があればぜひやってみたいです!
あとは今年も踊ることを大切に生きていければ......。バレエは当たり前の日常ですが、キャリアを重ねるうちにどんどん大切なものになっている気がします。続ければ続けるほど嫌になるのではなく、続けるうちにそれが価値になっていくんですよね。去年はバレエに救われたので、今年はバレエをさらに大切にしていきたいですね。
――忙しい日々のなか、どんなふうにリラックス時間を過ごしているのでしょうか?
私はかわいいものが大好き。ネイルは踊る作品や衣裳にちなんだ色でアレンジしています。あと、いつも一緒にいる亀のぬいぐるみ、ロピさんの存在も大切ですし、最近はラブブにもハマりました。色はピンクが好きです。何歳になっても「かわいいものが好き」という心を失いたくないですね。
――お休みのなかった2025年を乗り越え、今年は旅行にも?
リゾートに行きたいんですよ。思う存分、体を伸ばしてゆっくりできる場所に行きたいです。もちろん仕事は私にとって一番大切なコアの部分にあるけれど、人間として柔らかで豊かでありたいので、リラックスする時間も大切にできれば。2026年は心満たされる自分でありたいですね。