
悪役会議の後編は、『ザ・カブキ』悪役論からスタート! 2019年6月、7月に予定されている『ザ・カブキ』海外公演を前に、海外公演あるあるの話題もお届けします。

ちょっと悪めに構えてみました──。左から師直役の森川茉央、伴内役の井福俊太郎、定九郎役の杉山優一
──バレエ団ではこれまでほかにどんな悪役を演じてきましたか。
井福俊太郎 僕は実は......、経験ないんです。
森川茉央 悪役といえば、大柄なダンサーが演じる役柄が多いかもしれないね。
杉山優一 考えてみると僕も、悪役ってほかにはやっていないかもしれない。
井福 でも、ブルメイステル版の『白鳥の湖』だったら、第3幕はほぼ全員悪役ですね。
杉山 まあ、そうだね(笑)。じゃあ悪役の代表といえばロットバルト? ティボルト(『ロミオとジュリエット』)は悪役ではない?
森川 ティボルトもヒラリオン(『ジゼル』)も悪役とは思っていませんよ! ハイ・ブラーミン(『ラ・バヤデール』)も!
杉山 そう、たまたま敵役になってしまうだけで。
森川 そうなると、本当の悪役ってロットバルトくらいではないかな。古典バレエの悪役に多いのは、こう、不器用な愛し方しかできない人か、正義感に強すぎる人。純粋すぎて物語を悪い方向に動かしてしまうんですよね。しかし! 師直は悪いヤツですよ。これはホントに酷いヤツです!
杉山 そういえば以前演じた石堂も悪役ではなかった。判官に同情的だし。
森川 薬師寺のほうが悪役なんですよね。
──悪役を演じる際に、何か特別に工夫していることはありますか。
森川 僕、そんなに悪い人じゃないから(笑)、いろいろ考えないと何もできなくなってしまうんですが、たとえば、目。目の動きをはっきり見せるのは重要ですね。あと、映画を見ているときもよく考えます。こういうふうにやると悪くみえるんだな、と。どの分野のお芝居でも、一緒のところがありますよね。
井福 僕の今回の課題は、伴内の笑い方なんです。兜改めの場と、おかる勘平との場面では、笑い方を少し変えたいんですね。笑っている時間が長ければ、準備ができるので何とかなるのですが、短い時間で準備なしに笑って、直後に素に戻らなければならないとなると......。
森川 車の運転しながら練習していて、信号待ちで隣に並んだ車の人に見られてすごい顔で驚かれたんだってね(笑)。
井福 だって、歩きながら笑う練習とかできないじゃないですか!
森川 もっと怪しまれるよっ。
伴内(岡崎隼也)とおかる勘平(川島麻実子、宮川新大)
photo: Kiyonori Hasegawa
杉山 ......定九郎の場合は、表情を変化して見せるのとはまた違うんですよね。もちろん、動かさないにしても表情は大事かと思うのですが。
井福 僕、杉山さんの笑う演技がすごく好きなんです。ロックの場面、僕はテレビを見て笑っているんですが。
杉山 そう、僕は本を読んで笑う。
井福 その笑いが、すごく自然なんですよね。
森川 肩の揺れとかがね。
杉山 そうかな......。いやあれは、笑う役をやれないので、自分で笑いを入れちゃおうと思ってやっていて(笑)。
森川 (笑)。あそこのロックの場面は自由なんだよね。師直役のときは走る動きと決まっているけど、直義役のときは僕はモップで床掃除しています。これは僕の前にあの役をやっていた人から受け継いだんだけど、あの場面の振りは基本的にそれぞれ自由。客観的に見るとなかなか面白いんです。

ロックは自由! photo: Kiyonori Hasegawa
──ところで、来年は久しぶりの『ザ・カブキ』海外公演が予定されています。これまで、海外のお客さまがどんなふうにこの作品を受け止めてこられたか、興味があります。
森川 そう、海外公演ならではの反応といえば、たとえば第八場──。ふんどし姿の憂いの男たちが登場しても、海外のお客さまは恥ずかしがることなく、しっかり観てくださるという印象があるんですよ。イノシシの登場もすごく湧きます。創作時にベジャールさんがすごくこだわって入れた場面だと聞きました。
杉山 日本のお客さまもとても温かいですが、海外のお客さまは舞台に対して思い切り反応してくださるのが特徴的ですね。『ザ・カブキ』に限らず、ですけれど、日本を感じていただける作品だけに、より反応は強いと思います。
森川 前回の『ザ・カブキ』の海外公演は2014年のシュツットガルト公演だったね。
杉山 ミラノ・スカラ座でやったのは──。
森川 2010年、海外公演700回記念のときです。スカラ座は舞台の傾斜がえげつないほど強かったんですよね。バランスを取るのがすごく難しい。あの強い傾斜の舞台で、この独特の振り。なかなか苦労するところですね。俊太郎は海外での『ザ・カブキ』はまだ経験なかったよね。覚悟しておいたほうがいい(笑)。
井福 あの、僕、海外で踊っていたとき、結構傾斜あったんです。
森川 おお。ならばきっと素晴らしい伴内を!
井福 いや、あの、その、斜めは苦手でした(笑)。カンパニーに床が斜めになっているスタジオがあって、斜め舞台での公演があるときにはそこで練習をしていたのですが、東京バレエ団に入ってからしばらく経つので、ちょっと......。
杉山 傾斜舞台。定九郎はちょっとヤバい、ね......。
森川 そういえば、『ザ・カブキ』の悪役はみんなバランスが多い! 本当に斜めの舞台というのは難しく、できたら避けたいくらいだね。
杉山 イタリアの劇場といえば、だいぶ前のことなんですが、終演後、楽屋口で現地のお客さまに声をかけていただいたことがあって、それが、十年ほど前の東京バレエ団の『ザ・カブキ』を観て感動し、ファンになったと。それで、そのときの古いプログラムを携えて来てくださった──。こういう経験をすると、もちろんそれは『ザ・カブキ』が古い作品だからということでもあるけれど、バレエ団の歴史、──先生がたや先輩がた、オリジナルのキャストたちからすべて受け継いで、そのおかげでいまの自分たちがあるということを実感します。この作品に取り組むうえで、その重みを大事にしていきたいなと、あらためて思いました。
森川 東京バレエ団のためにベジャールさんが振付けてくださった、とても大事な作品ですからね。
杉山 それに、今度の『ザ・カブキ』は上野での上演。
森川 東京文化会館での『ザ・カブキ』は2013年以来。上野は僕らにとってはやはり特別な場所ですからね。
杉山 そうなんです。あの場所、そして作品の重みを感じながら、僕たちも楽しみながら演じますので、皆さまにもぜひ、今回の『ザ・カブキ』を、存分に楽しんでいただけたらと思っています。
森川 12月は『くるみ割り人形』が定番ですが、『くるみ』に飽きたら、ぜひ『ザ・カブキ』を(笑)! これは東京バレエ団でしか観ることができませんから、ぜひ観に来ていただけたらと思います!
井福 ......もう言えることが何もなくなってしまいました(笑)。頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします。