
今回登場する山下湧吾は、6月に延期して開催される〈上野の森バレエホリデイ2021〉の「ダンス&クリエーション2021」で自作を上演します。創作活動、舞台に対する思いをじっくりと聞きました!
──「ダンス&クリエーション2021」では、昨年1月のスタジオ・パフォーマンスで発表した『Jump UP』を上演します。
山下湧吾 初めて振付けた作品です。実は、昨年の〈バレエホリデイ〉で、キャノピー(屋外特設ステージ)での上演を想定していたのですが、コロナ禍で中止となり、今回あらためて上演の機会をいただきました。
バレエの公演は、お客さまに劇場に足を運んでいただいて初めて成立するもの。でもキャノピーでは、通りすがりの人やバレエについてなんの知識もない方にも観ていただける。そこで「あ、面白いな」と興味を持っていただけたらと考えて創った作品なんです。こうした場所でパフォーマンスをする機会は他ではほとんどありませんから、上演をすごく楽しみにしていました。
──残念ながら、今回も屋外での開催ができなくなってしまいました。
山下 オンライン配信に変わっても、基本は変わりません。観ている方々が楽しい気分になれるように、という部分を重点的に突き詰めていきたいです。
──スタジオ・パフォーマンスから1年経ちましたが、作品に変化は?
山下 振付自体を変えたところもあります。当初、4人のダンサーが個々に同じ振りで踊る部分が多かったけれど、もっとペアの繋がりを意識したり、皆が本当に楽しんで踊っている状況やチャーミングなところ、素の笑顔が出たりするようなイメージを目指しているんです。
でもむしろ、僕はもっと"心"にアプローチしたいなと思っています。観客の方々がバレエを観て、「すごいな」「綺麗だな」って思うものって、少し客観的なところ、他人事のようなところがあるけれど、皆がもっと共感できる気持ちって何かなと考えたら、それはやっぱり「楽しい!」という気持ちだなと思ったんです。それに、この1年の出来事は本当に大きく、皆、どこかしらもやっとしたところがあるように思うんです。この作品を踊る間は、もやっとした部分は全部取っ払って、一瞬一瞬何も考えず、ただ楽しく踊れる時間であってほしいなと思うんです。
──この1年で、新作にもチャレンジしましたか?
山下 バレエ団以外の場でしたが、ショパンのピアノ曲で、もっとクラシック寄りの作品を創りました。そうしたら、「あ、自分ももやがかかっているかも」って気付いてしまった(笑)! 自分がどんな作品を創っていきたいのか、まだ迷いがある──。これからどう表現していきたいのかということを、いま、いろいろ考えているところです。
──バレエの素晴らしさをたくさんの人に伝えたい?
山下 僕自身がバレエに救われたところがありますから! 弟の付き添いでバレエ教室に行ってみたらすごく楽しくて、いろいろ悩んでいたことを全部忘れて夢中で取り組むように。東京バレエ学校時代に観たハンブルク・バレエ団の『リリオム』も、バレエを頑張ろうと思ったきっかけに。斬新かつ繊細で、何かこう心にぐっとくるものを感じました。
──そういえば3年前の〈世界バレエフェスティバル〉では、ハンブルク・バレエ団のアンナ・ラウデールとエドウィン・レヴァツォフが演じた『アンナ・カレーニナ』に出演しました。
山下 素晴らしい体験をさせてもらいました。僕が演じたのはアンナの息子の役。でも、「ここでこうするんだよ」という具体的な演技指導はなく、物語、その場の状況を二人が丁寧に伝えてくださって、それぞれが自分の物語の中で生きているようでした。アンナの息子は実際にはあの場にいません。彼女の記憶の中の存在です。アンナと恋人のヴロンスキーも、お互いに目を合わせることなく踊っている。それを目の前で見せてくださって! この空間に、僕も混ぜてもらえたことがすごく嬉しかったです。
──貴重な体験!
山下 そうなんです。こうした経験、知識を得たことで、さらにもっといろんなものを見てみたいという気持ちになって、それが、振付に挑戦したいという思いに繋がっているのかもしれません。いろんな振付家に興味を持つようにもなりました。
──気になる振付家は?
山下 いまはクリスタル・パイトに興味があります。彼女の作品はグロテスクでバイオレンスの要素が強い、というイメージだけれど、それでいて美しい。彼女のいろんな作品を動画で見ています。
──今後の創作に期待しています。もちろん、バレエ団の公演も!
山下 昨年末の『くるみ割り人形』でロシアを踊らせてもらったのですが、ソリスト役を踊った実感、達成感を得るまでには至らず、むしろ課題が増えてしまった! コンスタントにこういった役を踊り続けるためにはどうしたらいいのか──。まずは怪我をしないこと、それから、あらゆるパの精度の平均値を高めることが大事だなと思っています。
──〈バレエホリデイ〉では『ドン・キホーテの夢』に出演、そして初挑戦の『カルメン』にも。
山下 アロンソ版『カルメン』はワガノワ・バレエ・アカデミーに東京バレエ学校の研修生として留学させてもらった時、マリインスキー劇場で観たことがあるんです。東京バレエ団のレパートリーに入っていることを知って本当に驚きました。7月には〈HOPE JAPAN〉でベジャール作品も上演する予定ですから、いろいろと課題は増える一方だけれど(笑)、課題があることは決していやなことではないし、チャレンジできるのは楽しいと思っています!