
アッサンブレ会員の皆さま、明けましておめでとうございます。このブログでは、本年もダンサーたちのホットな話題をお届けします。どうぞお楽しみに。2022年の第一弾は、プリンシパル・上野水香の登場! ニューイヤー・スペシャルのロング・インタビューをお届けします。
──新年、明けましておめでとうございます。
上野水香 明けましておめでとうございます。どんな年になるか予想がつきませんが(笑)、今年もよろしくお願いいたします!
──2021年はとても充実した日々を過ごされましたね。
上野 非常に充実した1年でした。〈ニューイヤー祝祭ガラ〉の『ボレロ』で始まり、バレエ団の活動だけでなく外部出演のお話もたくさんいただき、とくに8月、9月は毎週本番がありました。8月には初の能とのコラボレーションを経験して、9月は2つの全幕作品の合間にいくつか舞台があり、その後ミュージカルに出演。正直、こんなに詰め込んでしまって、どこかで倒れてしまったらどうしよう、という思いもありましたが、不安になりながらも、物事は挑戦しないとわからない、挑戦する前から「できないかも」とやめてしまったら、挑戦してどうなるかわからないまま終わってしまう。まずは、「やってみよう!」。できなかった時のことは、その時考えようと思ったんです。
──東京バレエ団の舞台では、〈ニューイヤー祝祭ガラ〉、〈HOPE JAPAN 2021〉の東京公演および全国ツアーでの『ボレロ』が強く印象に残りました。
上野 思いがけず、でした。年明けの公演では、私の『ボレロ』がようやく、本当の意味で、多くのお客さまに受け入れていただくことができたと実感しました。もちろん、以前からそう感じることはあったけれど、この時の『ボレロ』は次元が違いました。何かに到達したかな、と思ったのです。
──どんな思いで全国ツアーにのぞまれましたか。
上野 ベジャールさんの『ボレロ』を長年踊ってきて、この作品のことをとても大切に思うとともに、実は、非常に重たいと感じるようになっていました。そんな中で踊った1月の舞台は、自分としてもいい手応えがあり、これまでで最高に良かった──。それだけに、7月の〈HOPE JAPAN〉でもう一度、ということが大きな重荷に。しかも全国をまわる。重いな、と感じました。ですが、いざやってみると、各地のお客さまがすごく熱狂して受け止めてくださって、それはもう、私自身がびっくりしてしまうくらい!
──『ボレロ』に取り組む時の気持ちに変化は?
上野 『ボレロ』を踊る時は、すべてを無にして、自分のすべてをさらけ出すようにしてきました。もちろん、形とか、守るべきこととか、大切なことはあるけれど、それを超えたところに、限りない自由を感じるようになってきたんです。最終的には、その表現の極みに辿り着きたい。もっと自由になれるかもしれないし、もっともっと、大きなものが出てくるような気がしています。『ボレロ』という作品は本当に深く、時間がかかるものと実感しています。時間とともにどんどん深まっていく。ギエムさんも何度も何度も踊られましたが、最後の『ボレロ』が一番深かったと感じました。胸のすくような男勝り、というだけでなく、どこか哀愁をたたえた『ボレロ』は、本当に格好よかったですね。
〈HOPE JAPN 2021〉でのベジャール振付『ボレロ』より。
photo: Kiyonori Hasegawa
──実は、髪型もいろいろ変化してきたんですよね。
上野 そうなんです。ずっとギエムさんを観ていて、『ボレロ』は長い髪がいいなと思って、彼女のようにストレートのロングで踊ったこともあります。でも、私の猫っ毛では、激しく動いた時にギエムさんのようにきれいにまとまらず、ただボサボサになるだけで、そのうち汗で顔にベタっとくっつく始末(笑)。ショナ・ミルクのようにポニーテールを試してみたこともあります。ある時は、三つ編みを何本も作って癖づけしたり、ワッフルアイロンでウェーブを作ったり。が、いずれも大汗をかいたら最後、全部戻っちゃう。最終的に緩いパーマをかけてみたら、汗で湿ってくるとよりウェーブが強まって、いい感じになることがわかりました。髪も踊ってくれるんです。全身で踊るその中に、髪も含まれると考えます。ジョルジュ・ドンも、あのライオンのような髪が大きな魅力ですよね。より自然に、そのままの姿でいることが、『ボレロ』にはもっとも相応しいというのが、私の結論です。
──自然体であるべきと。
上野 そうですね。足のテーピングさえも、邪魔になります。人間の生身の姿そのものを見せるわけだから、ちょっとでも違うものが加わると、観ていらっしゃる方々の集中力を削いでしまう。その人そのもの、ありのままがいちばん響くということがわかってきました。
──7月には〈ベジャール・プロ〉が予定されていて、皆さん、楽しみにされていることと思います。
上野 楽しみですね!
ベジャールさんのいろんな作品を踊らせていただいていますが、『ボレロ』に限らず、ベジャールさんの作品は動き、ポーズの中から匂い立つものがないといけないなと感じます。ただ振りを追うだけなら誰でもできることだけれど、それができるかどうかが、ベジャール・ダンサーとしての良し悪しの境目になるのではないかとも思います。それはプティさんのバレエでも同じですが、私はいつも、その香りを求めてやってきたつもりです。
──では、『ボレロ』とともに、ご自身にとってもっとも大事な作品の一つである『白鳥の湖』についてはいかがですか。
上野 寄せてきましたね(笑)。そうですね。頑張ります!
──オデット/オディールの演技も、いろいろと秘密がありそうですね。
上野 皆さん気づかれていることかもしれませんが、私は白鳥と黒鳥とで靴を変えています。『ジゼル』でも第1幕と第2幕とではポワントを変えましたが、ポワントによって、それぞれが可能にする表現というものがあるので、その力を借りています。ちなみに、2幕と4幕はサンシャで、より現実離れした、幻想的なバレエに向いています。3幕は、より強靭なテクニックに適したゲイナーを使っています。でも、メイクは変えていないんですよ。
──変えていると思われている方は多いのでは!?
上野 変える必要はないんです。踊り自体、くっきり違う表現ができるように作られていますから。黒鳥はただでさえ強いのに、メイクまで強くしたら悪魔そのものになってしまう(笑)。
大事にしているのは、目の表現です。オデットなら、目で悲しさを漂わせる。一方のオディールは、まだ悲しみを知らない女性で、もっと明るい。王子を誘惑することを、彼女は楽しんでいるんです。だから目の中に、楽しんでいる色がある。邪悪というよりもむしろ、もっと無邪気に王子を誘惑していると思います。それも、父親に言われたから。「わかった! じゃ、行ってくる!」と(笑)。それが、アダージオで王子を誘惑しているうちに、王子のことを素敵だなと思うように。そうしてさらに高揚し、最後はああいった表現になるのだと思うんです。
『白鳥の湖』第3幕より、王子を誘惑するオディール。
photo: Kiyonori Hasegawa
──そんなところも、2月の舞台で注目していただきたいですね。
上野 そうですね。そして、今年もいい年になると思います。ちゃんと流れが来ている、風が来ていると感じています。何かがきっとある! 私は運が強いのできっと大丈夫だと信じています。いつも応援をしていただいている分、いい踊りで応えるしかないのですが、まずは、『白鳥の湖』。ぜひ、劇場にいらしてください。ありがとうございました。
自然にパワーをもらっています。写真は、最近ドライブで行って感動した風景。地元鎌倉の明月院、あじさい寺として知られているお寺ですが、ここの「悟りの窓」という丸い窓から見る景色です。さまざまな色が奥のほうまで重なって、立体的に見えるのが本当に美しいのですが、お天気や日差しの感じで、見え方に変化があるそう。私が見に行ったこの日はとくに美しかったそうです。午前中がより美しいとのこと、ぜひ紅葉の季節に見に行ってみてください。そう、私は神奈川県観光親善大使なのでした。(上野水香)