
クランコ版『ロミオとジュリエット』公演、いよいよ開幕です。今回はジュリエット役を演じる足立真里亜が登場、ジュリエット役について、作品について、じっくりと語ります。
──ジュリエット役に選ばれたときのお気持ちは?
足立真里亜 しばらくは全く実感がわかなかったんです。この4月にソリストに昇進させていただいたのですが、配役が決まった頃はまだセカンドソリストでしたし、初めて古典全幕で主役を踊らせてもらった昨年12月の『くるみ割り人形』もまだ本番を迎えていませんでした。コロナ禍がこれからどうなるのか、指導者の方が来日できるのかどうかも確実なところは誰もわかりませんから、ずっと現実味のないままだったんです。
多くの女性ダンサーにとって、ジュリエットは憧れの役だと思いますが、いっぽうで、ジュリエットの心情を完全に理解するのはとても難しいことと感じていました。でもリハーサルが始まって、私はやっぱりジュリエットの気持ちに寄り添わなければいけないと実感しましたね。
──ジュリエットのことをどんな女の子として捉えていましたか。
足立 乳母にすごく甘えている女の子、という印象が強くありました。乳母はジュリエットの手紙をロミオに届け、その恋を後押ししますが、この子はきっと親のすすめる相手と結婚することになる、でも、自身で見つけた初めての恋をどうにかしてあげたい、という気持ちが強かったように思うんです。ただし最後には、婚約者パリスのほうへ行くようにとジュリエットに促しますよね。が、ジュリエットはパリスのことなんて全然見えていなくて、もうロミオのことしか考えられない。ジュリエットに別の選択肢はなかったと思うんです。
──恋するジュリエットの心境については?
足立 世紀の大恋愛をしたことがないのでわからないところもあるのですが(笑)、恋をして突っ走っていくのは若さだけでは説明できないように思うんです。それは、目があった瞬間に始まってしまうものであって、正しいとか間違いとか、良いとか悪いとかではなくて、運命じゃないかなって思います。ジュリエットは、その運命に抗うことなく、素直に従った女性なんですよね。
──昨年はベジャール版『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥを踊られました。
足立 あのパ・ド・ドゥでは、ロミオとジュリエットの二人の周りで人々が激しく争っていて、もちろん愛とか恋する気持ちは大事だけれど、むしろ平和とか生命に焦点が当てられている印象でした。ベルリオーズの音楽もあまり馴染みがなかったので、何の先入観もなしに演じていました。
──クランコ版の振付の特徴はどんなところにあると思いますか。
足立 皆さんがとてもドラマティックだとおっしゃるように、本当に一つひとつの動きが台詞のように感じられます。必要以上に派手な感じがしないことも印象的です。もちろん、カーニバルの場面のような活気あるシーンもあるけれど、すべての振付が、登場人物の感情に基づいて動いているように思うんです。
たとえば、音楽がすごく盛り上がったら振付もそれと同じようにものすごく盛り上がるものかと思うけれど、クランコの『ロミジュリ』の場合は、音楽がすごく盛り上がっているのに、リフトされて相手の肩にすっと乗るだけ──という場面が実際にあるんです!
最初はそれが不思議に思われたのですが、踊り込んでいけばいくほど、そういうところでマックスにたどり着く感覚になります。本番では、そこで私の最高潮の気持ちが伝えられたら、と思っています。
──全編をとおして見どころが満載のバレエです。
足立 とくに第1幕のバルコニーの場面が有名ですが、ジュリエットとしては、第3幕の寝室の場面が心に響きます。本人たちはまだ知らないけれど、二人にとっては最後の時間。お互いに触れるのも、抱きしめるのも、キスをするのも全部最後。でも振付指導のジェーン(・ボーン)先生は、「その結末を知っているかのように踊るのはよくない」とおっしゃっています。確かに、二人は物語の結末は知らないし、もう二度と生きて会えないなんて思ってはいないはずですよね。しかも、一夜をともにして、もっと大人の関係になった二人ですから、その視線も熱量も以前とは違う。その違いを表現できたらと思います。ただし、決して悲しすぎないように──。そうしないと、最後の最後のシーンが生きてこなくなるように思うんです。先日、母に「あなたはどんなところにいちばん気持ちを入れて踊りたいと思っているの」って聞かれたのですが、その時点ではまだよくわかっていなかtなくて、翌日の通し稽古で、ああ、ラストシーンが大事なんだなって実感しました。本番の舞台では、自分を完全に捨てて、舞台で感じたまま、そこにいくことができたら、と思っています。
それを伝えるのが難しい! もっと伝えられるのに!!って思うことがたまにあります。「本当は私、いま、こういう気持ちなんですよー!」って口で言いたくなるときも(笑)。
『ロミオとジュリエット』リハーサルより。パリス役の大塚卓と。
photo: Yumiko Inoue
──体力的にも大変な舞台になるのでは?
足立 大丈夫、元気いっぱいですから! とはいっても身体のことはすごく気にしています。以前、バレエ団でチョコレートを食べていたら、「そんなものばかり食べていたらダメですよ」と後輩に注意されました。後輩に(笑)! だから最近は、良質の脂を摂るように気をつけています。
──オメガ3?
足立 そう! ナッツ類に含まれていますよね。あと、茹で卵。私の体格だと1日に2、3個食べても大丈夫だというので、できるだけ食べるようにしています。それから揚げ物は避ける、砂糖は最低限に抑える──。
──日々の積み重ねですね。
足立 そうですね。『くるみ』でマーシャを踊らせてもらって気づいたことでもあるのですが、役柄に没頭しすぎないように気をつけないといけないなと感じています。クラスの時には自分の弱いところに向き合って、自分の表現を磨くべきだし、日々の訓練があるからこそ、初めてその役に入ってその表現ができるようになるはず。最初から主役の器を持っている人もいるかもしれませんが、私の場合は悔しいけれどそうじゃない。でも、少しずつ作って、少しずつ磨いていくことはできる。それは私の果たすべき義務だと思っています!