
すでに懐かしささえ感じてしまう7月の公演といえば、〈ベジャール・ガラ〉。『火の鳥』のタイトルロールに初挑戦した大塚卓が、緊張の舞台を振り返ります。
── 今年の夏はベジャールの『火の鳥』タイトルロールという大きな挑戦がありました。ストラヴィンスキーのあの音楽には馴染みがあったそうですね。
大塚 卓 以前在籍していたオーストラリアのクイーンズランド・バレエ団ではリアム・スカーレット振付の『火の鳥』を上演していて、スカーレットさん直々に指導していただきました。お姫さまと王子、カスチェイが出てくる、ロシアの民話がベースのスタンダードなストーリーですが、スカーレットさんならではのネオ・クラシックな雰囲気の作品でした。僕はカスチェイの手下を踊っていました。ストラヴィンスキーの音楽は身体に入っていたんですが、ベジャールさんの『火の鳥』は全く違う! ベジャール版を観たことがなかったので、最初は驚きました。
『火の鳥』より。photo: Shoko Matsuhashi
──振付指導の小林十市さんがタイトルロールに指名されたのだとか。
大塚 それは全然知らなかったんです。たしかに、一昨年のベジャール振付『M』のリハーサルで急遽踊らせてもらう機会があって、それで認めてもらったようなのですが、その時はずっとリハーサルを見ていたし、練習していたし、普通に踊れます、という感覚でしかなくて──。クイーンズランドにいたときもそんな場面があって、誰かが怪我をしたり不在の人がいたりすると、「僕、できます」と踊っていました。それが配役に繋がることもあるんです。たとえば、1つの作品を4週間じっくりリハーサルして、2週間公演をする、というように、1プロダクションの公演数が多く、怪我人が出るケースもたびたびある。だから配役されていなくても、アンダーに入っていてもいなくても、とにかく振りは覚えていました。
──東京バレエ団に入って2年。着実にベジャール作品のレパートリーを増やしていますね。
大塚 入団後最初に取り組んだベジャール作品が『M』で、その後『ボレロ』のリズムに参加しました。昨年の〈HOPE JAPAN〉で『ギリシャの踊り』と『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥを踊らせてもらって──。この時だったかと思います。「あ、これは自分に合っているのかな」と感じたのは。
──昨年11月の『中国の不思議な役人』では役人を演じました。
大塚 もしかしたらハマリ役?と思うことも(笑)。というのも、『中国の不思議な役人』はストーリーのある作品にもかかわらず、演技らしい演技はしなかったんです。もちろん不気味な表情などは心がけていたけれど、演技というよりはその場で起きていることに対してのリアクションだけでやっていくことができたので。それに対して、『火の鳥』の緊張感といったら──!
──といったら!?
大塚 ベジャールさんの作品の中でもとくにバレエよりの作品ですが、ベジャールさん独特の上体、とくに腕の表現が難しく、繰り返し注意を受けていました。同時に言われていたのは、呼吸で踊るように、と。この役柄は、呼吸が止まったらもう苦しいだけなんですよ。吸って吐いて、吸って吐いて、と胸式呼吸から腹式呼吸に変えるように言われていました。鼻で吸って口で吐くように気をつければいいだけなのに、腹式呼吸なんてこれまで意識したことがなかったので、戸惑いました。
──体力的にはとても厳しい?
大塚 とにかく絶え間なくキツいんです(笑)。とくに最初のソロは、その出来によってその後のテンションが変わってくるし、周りのパルチザンたちがついてきてくれるかどうかが決まるといってもいいので、その緊張感はすごかった。
でもベジャールさんの振付は無駄がないし、この曲だったらこの振付しかないなと思わせるところがあると感じました。とくに最後のアダージオって本当にすごい。パルチザンの見せ方も本当にカッコいい。リーダーとしては、皆に負けない踊りをしなければいけないと奮い立つんです。
『火の鳥』より。photo: Shoko Matsuhashi
──では、ベジャール作品の魅力とは?
大塚 『春の祭典』も『ザ・カブキ』も、『くるみ割り人形』もまだ経験していませんが、ベジャール作品を踊るのはとても楽しくて、やればやるほど上手くなっていくという実感があります。クラシックでは、1日や2日で「上達した!」って実感することなんて決してない。それだけにモチベーションを保つのが難しいのだけれど、ベジャールさんの振付は、身体に入れば入るほど、もっと自由にできるようになる。もっと先が見えてくる。自分の伸びしろを感じることができるんです。いまはまだ他の作品のことを考える余裕はないけれど、きっと意欲をもって挑戦できると思います。
──12 月の『くるみ割り人形』では、昨年ツアーで初挑戦したくるみ割り王子に再び取り組みます。
大塚 くるみ割り王子は、マーシャの夢の中の王子ですから、古典の王子役の中でもちょっと親しみやすくて柔らかな感じがある。でも、あのグラン・パ・ド・ドゥは、もしかしたらあらゆる作品の中で一番難しいグラン・パ・ド・ドゥかもしれない! じっくりとリハーサルしていけたらと思います。もちろん、場数を踏むことも大事だと思います。たとえば、『ドン・キホーテの夢』は、全国公演や学校公演で舞台を重ねているので、本番の緊張感は保ったまま、不安なしに楽しく踊ることができます。
──エスパーダを踊っていますね。
大塚 そうなんです。ただし、踊りすぎて逆に違う方向に進んでいやしないかと、心配になることも(笑)。気をつけなければ!
子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』より、エスパーダ
photo: Shoko Matsuhashi
──では、今後の抱負をどうぞ!
大塚 東京バレエ団にはどんなことにでも対応できる、本当にレベルの高いダンサーがたくさんいますが、僕はまだまだそこに達していません。どんなにお客さまからいい反応をいただいたとしても、自分で納得いかない踊りしかできないようではダメだと思っているんです。こうして大きい役を任せてもらうようになって、体調管理や怪我の予防にはすごく気をつけているのですが、これからも、どんな状況においても、プロとして舞台をやりきれるようになりたいと思っています!
今年の夏は本当に暑かったですね。ダンサーにとって水分補給は欠かせません。今年は経口補水液に助けられました!(大塚 卓)