
『ラ・バヤデール』公演直前の今回は、「影の王国」第3ヴァリエーションを日替わりで踊る先輩(政本絵美)と後輩(長谷川琴音)の二人の登場です。9月中旬、リハーサルの合間を縫ってやってきた二人の髪は──!?
──二人とも髪が短い! とてもお似合いですが、いったいいつ切ったのですか?
政本絵美 夏の『子ドン・キ』(『ドン・キホーテの夢』)が終わってすぐ切りました。ショートの金髪をやってみたくて、タイミングを見計らっていたんです。『ラ・バヤデール』ではお団子を下のほうに作るスタイルなので、自分の髪の伸びるスピードを計算して──。
長谷川琴音 私は『子ドン・キ』の公演期間中に切ってしまいました(笑)。バレエ団の中でショートがちょっとしたブームでしたよね。
政本 バレエやっていたら短くできないなんて嫌ですよね。昔はスキルがなかったので完全に諦めていたのですが、きれいにアップにできるのであればショートも楽しんでいいのかなと思うんです。ただ、『ラ・バヤデール』ではニキヤの"影"になるので、本番に向けて髪色はもっとダークにします。
──その『ラ・バヤデール』。お二人は「影の王国」の第3ヴァリエーションを日替わりで踊られます。長谷川さんは今回が初挑戦ですか。
長谷川 そうなんです。初めてです。3つの中で一番好きなヴァリエーションなので嬉しいです!
政本 爽やかで疾走感が特徴的なんですよね。そういうふうに感じていただける踊りができたらいいなと思っています。
長谷川 コール・ドとして舞台上にいるだけなのに、ヴァリエーションになると私も一緒になって緊張しちゃっていました。その中でも第3は音楽が楽しくていいなと思っていたんです。

──お二人は「影の王国」コール・ドでも活躍されます。
長谷川 (佐野)志織先生と夏未さん(バレエ団OGの岸本夏未)に指導してもらっています。「影の王国」は抜粋上演を含めるともうすでに何度も経験しているのですが、こればかりは何度やっても──、です(笑)。
──「影」初挑戦はいつでしたか。
長谷川 2017年に入団して、その年の夏の『ラ・バヤデール』で初舞台を踏みました。踊ったのは第1幕のワルツと、第2幕「影の王国」のコール・ド。この時の『ラ・バヤデール』は緊張しすぎてほとんど記憶がないんです。
でも、当時のリハーサルのことは覚えています! 入団してすぐに海外公演──シュツットガルトでの『ラ・バヤデール』が予定されていて、私は出ない予定でしたが、そのリハーサルでアンダーに入らせてもらったのが最初でした。その時、ここは「リノ1/3」(床のリノリウムの幅の1/3の位置)とか「1/2」と言われて、「そ、そんな概念があるのか!」と驚かされました。それに、皆の中に入ると何だか自分だけ全然違う気がして──。
政本 初めての時は私も同じ気持ちでした。私は入団した年がちょうどマカロワ版『ラ・バヤデール』のバレエ団初演の年で、その時は配役されていなかったけれど、アンダーとしてリハーサルに参加していたんです。先輩たちがリハーサルしているのを、横で見ながら練習しているうちに、「振りは覚えた!」。──で、ある時、お休みされた先輩の代わりにコール・ドに入ったんです。前の列の真ん中から2番目。隣は渡辺理恵さんでした。この時はもう──何もできなくて頭の中が真っ白! あとで先輩たちに、「実際に入ると全然違うでしょう」って言われて、「本当にそうです」と──!!
あの時のことは忘れられません。私だけ汗だくで、私以外全員超人かと思いました。私のことを注意してくれたのも私と逆サイドにいる先輩で、「あれ??? 一体どこからご覧になってました?」って(笑)。でもいまは向こう側も、後方も見えるようになりました。
2018 年、オマーン公演での「影の王国」より。
政本は最前列、長谷川は上手側の列にいます!
photo: Khalid Al Busaidi / ROHM
長谷川 私も、初回の頃よりは見えてきたかな、と思います。
政本 自分のことが完璧にできて、余裕ができて初めて周りが見えてくるんだと思う。それに、これは先生にも言われていることですが、揃っているのは当たり前、そのクオリティを保つのも当たり前。私たちには、より良いものを作って、更新していかなければならないという使命がある。そのためにも、毎回しっかりとリハーサルに向き合うことが大事だなって思います。
長谷川 そうですよね。『ラ・バヤデール』では失敗して袖で大泣きしたこともあるんですが、最近になって友佳理さん(芸術監督)に「そんなこともあった琴音が、もうこんなに成長して!」と言われたことがありました。
──そんな長谷川さんは第3ヴァリエーションのほかにも初役がいくつもあるそうですね。
長谷川 第1幕の巫女、ジャンぺ(侍女の踊り)、それからパ・ダクシオンのソリストも初めてです。第3幕のキャンドルは以前も踊っています。が、これだけ初役があると、日々追われながら、という感じでした。
──かなり忙しい日々ですね。体力的にも結構大変なのでは。
長谷川 気合いです! 私、いつも気合いで乗り切ってきました。
政本 私はたとえ就寝時間が遅くなったとしても、必ずお風呂に入ったり、赤外線をあてながらマッサージして、サプリメントを飲んだりしています。身体のために、できることはなんでもしたほうがいいよ! 疲れを残したままだと、翌日リハーサルに影響がでますから。
長谷川 そうなんですよね。これからはもっといろいろ配慮していかないといけないなと思っていたところなんです。
──では、お家でのリラックス時間はどのように過ごしているのですか。
長谷川 動画を見るくらいしかないんですが、全然バレエと関係ないものを見ていても、そのうち結局『ラ・バヤデール』のヴァリエーションの動画ばかり見ている自分に気がついて──。
政本 取り憑かれている(笑)?
長谷川 そうしないと無理!と思うところもあるんです。本番が近くなると、寝る直前に全幕の最初から最後まで頭の中で再現したりとか──。
政本 そう! 以前は私もやっていました。1幕から最後まで全部! でもいまは、家ではなるべくバレエから離れるようにして、お笑いを見たり──。
長谷川 お笑い!?
政本 M-1グランプリとか大好きです(笑)。テレビは見ない?
長谷川 私、テレビっ子ではなかったので今も家にテレビはないんです。どちらかというと、忙しすぎるくらいのほうが考えこまなくていいかも。時間が有り余っていたコロナ禍は少しきつかったです。落ち込むと「プリンセスになりたい」なんて思ったりもして。
政本 ......。
──......。
長谷川 (笑)。同期には「戻ってきて!」と注意されます!
政本 琴音とはいままでそんなに深い話をする機会がなかったけれど、こんなに面白いとは思わなかった(笑)。東京バレエ団のダンサーって、本当に面白い人が多いんです。これからもぜひ応援していただきたいですね。
長谷川 いつまでもパワフル、そしてより堅実で、自分らしさを出せるダンサーになりたいです。どうぞよろしくお願いいたします!
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髪を切ってみたら、レッスンのときに髪が邪魔になるので、カチューシャを作ってみました(写真左)。中央は切りたての頃の写真です。
右の写真は毎日の入浴時に愛用している入浴剤とマッサージクリーム。奥の左、エプソムソルトは身体の芯から温まります。右はアユーラの入浴剤3種。香りが好きで長年愛用、日によって使い分けています。 手前左のメンタームQは行きつけの治療院で購入しているマッサージクリーム。塗って寝ると次の日驚くほど足の疲れなどが取れます。『ラ・バヤデール』は足裏も疲れる作品なので、足裏にまで塗りこむのが今のブーム。右のヴェレダのアルニカは、すっきりしたハーブのマッサージクリーム。香りが好きで使っていますが、筋肉疲労にいいです。こちらも毎日の疲れによって使い分けています。(政本絵美)
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髪を切りたての『子ドン・キ』の頃(写真左の右端が長谷川)。こんなに短かったのでした! 本番では、後ろの髪をパパッと上げて、別途お団子をくっつけます。一緒に写っているのは左から山下寿理ちゃんと米澤一葉ちゃん。右の写真で一緒に写っているのはやはり同じ頃にショートにした先輩の榊優美枝さん。二人とも結構短いです。(長谷川琴音)