
──各地の皆さまに温かく迎えていただいた『くるみ割り人形』公演も、無事に終盤に突入。今回はウッデンドール、フランスなどで活躍した入団5年目の山下湧吾が登場、今年の活動を振り返りつつ、来年の舞台への思いを語ります!
──『くるみ割り人形』全国ツアーお疲れ様です。ソリスト役としてはウッデンドール、フランスで活躍されましたね。
山下湧吾 ウッデンドールは最初、どう演じるべきかなかなかイメージを掴めずにいた役なんです。他のカンパニーの『くるみ割り人形』ではドロッセルマイヤーが物語をひっぱっていくことが多いけれど、東京バレエ団の版では彼は最初に出てくるだけ。マーシャを導いていくのはピエロ、コロンビーヌ、ウッデンドールという人形たちで、マーシャを見守りながら、一緒に旅をする。でもマーシャにとっての王子とはまた立ち位置が違いますから、難しいなと思っていました。まだ答えは出ていないのですが、いろいろと考えながら演じるのは面白いですし、本番は生モノだから、その都度いろいろ変わります。それを楽しみながら取り組んでいました!
──今年もいろんな役柄を経験されましたね。
山下 ありがたいことです。去年も踊らせてもらいましたが、夏の公演でベジャールさんの『ギリシャの踊り』のパ・ド・ドゥ(通称"裸足のパ・ド・ドゥ")を踊ったこと、それから初めて踊った『火の鳥』のパルチザンはとくに印象的でした。
『ギリシャの踊り』はすごく好きな作品で、ベジャール作品の良さって、自分の個性、個人を出せるところにあるなと感じました。絶対にこうだというものがありながら、その中で自分をアピールすることができる。"裸足"はとくに、心の底から笑って楽しく踊れたし、もちろん緊張はしますが、それ以上にワクワクしました。テオドラキスの音楽も本当に素敵で、ダウンロードしてずっと聴いていたんです。僕の中では「もっとバレエをしたい!」と思うきっかけとなった作品です。
『ギリシャの踊り』よりパ・ド・ドゥ。パートナーは工桃子。
photo: Shoko Matsuhashi
──『火の鳥』のパルチザンは強烈な体験だったのでは。
山下 あのときもまた、ずっとワクワクでした。東京バレエ学校時代も、バレエ団に入ってからも『火の鳥』を見るチャンスはなかったのですが、先輩から、『火の鳥』というすごい作品があると聞いてはいたんです。『火の鳥』といえば手塚治虫さんの本しか知らなくて──全然違う物語ですけれど(笑)。
──小林十市さんのリハーサルはいかがでしたか。
山下 本番までの1カ月くらいで集中的にリハーサルをして、十市さんにも見ていただきましたが、十市さんのニュアンスの伝え方が、ものすごくすっと入ってくるのが面白かったです。ベジャール作品をずっと踊ってこられた人だからこそ出てくる言葉もあるだろうし、すごいなと思いながら、カウントをはじめ覚えることも多くて必死でした。本番までずっと気を張り詰めて過ごした感がありますが、すごく楽しかったですし、達成感ありました。
ベジャール振付『火の鳥』より。左から二番目が山下湧吾。
photo: Koujiro Yoshikawa
──ベジャール作品の魅力にすっかりハマりましたね。
山下 僕はもともとジャズダンスから入っていったこともあって、ワガノワ・バレエ・アカデミーに留学する前はコンテンポラリー・ダンスをやりたくて、ドイツに留学したいと思っていたんです。クラシックももちろんたくさん課題があるしやらなければならないことがたくさんあるけれど、クラシック以外も学ぶことで、ダンサーとしての表現の幅は広がって、自分の中で見えてくるものも広がると思うんです。踊るときの心持ちとか表情の出し方について考える機会も、ベジャールさんの作品に参加してから、すごく増えたと思います。
ベジャールさんの作品は、ダンサーのことをいちばんに考えて創られたのではないかとさえ感じます。ダンサー自身が盛り上がって、そこに自分の表現を見出すことができる。技術があってもダンサー自身が面白く思えなかったらお客さまには伝わらない。全力でワクワクしているダンサーが踊るからこそ、一人ひとりのダンサーも、作品自体も輝くのだと思います。
──今年は金森穣さんの『かぐや姫』のリハーサルもありました。
山下 童にキャスティングしていただいて、すごく嬉しかったです。第2キャストなので、リハーサルで穣さんから直接何かを受け取るという機会は少ないけれど、学ぶことは多いです。穣さんがご自身のことを「演出家」とおっしゃっていたのが印象的でした。ダンサーの振りを考えるだけでなく、作品をトータルで考え、奥のほうまでものすごく見ていらっしゃる。あの奥行きは、すごいなと感じます。
──創作に興味をお持ちでしたよね。〈Choreographic Project〉にも出品していました。
山下 興味、ありました。ありましたが、コロナ禍で世界中のいろんなカンパニーの映像を見ることができたじゃないですか。あの頃──僕はハンブルク・バレエ団が大好きなのですが、ハンブルクからもいろいろな舞台映像が配信されたのを見て、いろいろ考えていました。確かに、創作にチャレンジしたとき、僕はシンプルなものを目指していましたが、シンプルすぎてプロが創る作品としての重みは薄まっていたなと感じて──。いろんな作品を創りたいと思っていたけれど、その実力は自分には欠落しているなと感じ、今は創るべきではなく、学ぶときなのではないかと思いました。
──ジョン・ノイマイヤーの作品はどんなものを観ましたか。
山下 『ニジンスキー』も好きですし、『幻想〜「白鳥の湖」のように』も、すごく面白かった。自分には創れないかもしれないけれど、こういった素晴らしい作品から喜びとかワクワクする気持ちをもらったことこそが、僕がバレエを続けたいと思う理由です。バレエに助けられた部分がたくさんある。とりあえず何かしら創り続けるべきか考えもしますが、まずは、ダンサーとしての活動を頑張っていきたいと思っています!
──では2023年はどのような1年に?
山下 毎年、「成長できる1年に」と思っています。僕はわりと"調子乗り"なほうなので(笑)、何事も堅実に、ちゃんと細かく丁寧にやっていきたいと思います。2023年もクラシックの演目が多いかと思いますが、クラシックをベースにしながら、いろんな表現の方法、身体の使い方も学んでいきたい。皆さんには来年も、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいと思っています。
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あえて知らない駅で降りて散歩することもあります。青森出身で、田舎で育ったので田舎の雰囲気って好きなんです。ふと、昔の住宅が並ぶ路地に入り込んだりすると幸せな気分になります。旅先でもつい、時代を感じさせるようなものとか、古い看板とか、道端の花にも目がとまります。写真は以前、富山に行ったときに見つけた風景。日常で必要とされて置かれているモノでも、時間が経つと独特の味わいが出るものですね。自分で撮影した中で好きな写真の一つです。(山下湧吾)