
今回のブログは、先日大好評のうちに幕を閉じた〈上野水香オン・ステージ〉でさまざまな表情を見せた上野水香が登場! 本番直前のドレスデンでのリハーサルや公演の手応えなど、盛りだくさんでお届けします。
──公演お疲れでした! まずはいまのお気持ちを聞かせてください。
上野水香 無事終わりました! 多くの方々に劇場に来ていただいて、本当に嬉しく思いましたし、感謝の気持ちでいっぱいです。もう、どう語っても足りない感じがします。
──公演前はかなりハードなスケジュールをこなされたとか。
上野 1月末に渡欧し、マルセロ(ゲスト・ダンサーのマルセロ・ゴメス)のいるドレスデンでリハーサルをしていました。ドレスデン滞在中にジャン=ギヨーム・バールさんにZoomでヌレエフ版『シンデレラ』の指導をしていただくことになっていて、ほかに『白鳥の湖』の第2幕とプティの『チーク・トゥ・チーク』もありましたから、慌しかったですね。
──ジャン=ギヨーム・バールさんからは『シンデレラ』についてどのようなアドバイスが?
上野 ヌレエフ版『シンデレラ』の王子は映画スター。彼に見初められることでシンデレラはスターの世界に仲間入りする、という設定です。だから、昔のハリウッドのような雰囲気──たとえば、フレッド・アステアとシド・チャリスのダンスをイメージしてくれるといい、とおっしゃっていましたね。いじめられっ子でびくびくとしている女性を、映画スターはハリウッドのきらびやかな世界へといざなうわけですから、最初は彼がシンデレラをぐいぐいとリードしていくのですが、そのうち、彼女が映画スターを誘うようにふるまう場面も出てくる──短いパ・ド・ドゥの中にも、二人の気持ちの変化が見えてくる、そんな表現をしてほしいとも。
──東京公演初日の『シンデレラ』は残念ながらゴメスさんが降板され、代役でブラウリオ・アルバレスがパートナーを務めました。
上野 ブラウリオが頑張ってくれました! いつも練習に付き合ってくれていたので、急遽の代役に対応してもらえて本当によかったです。マルセロは3日目には回復、一緒に『シンデレラ』を踊ることができました。二人で練習してきたことが無駄にならなかったと嬉しく思いましたが、やはりお互いに何かまだまだやれることがあったなと思っていて、さらに何度か踊り込むことで「絶対にもっと良くなるよね」と話をしていたんです。
ヌレエフ版『シンデレラ』よりパ・ド・ドゥ。ブラウリオ・アルバレスと
photo:Shoko Matsuhashi
──ゴメスさんは連日『チーク・トゥ・チーク』で大活躍、客席を沸かせていました。
上野 『チーク・トゥ・チーク』を踊ることに関して、マルセロは当初少し躊躇していたのですが、私とルイジ(プティ作品の指導者、ルイジ・ボニーノ氏)で説得したんです。でも、踊ってみたらすごくよかった! マルセロも楽しかったと言ってくれました。以前、ルイジと踊っていたときは"男性が若い女の子にちょっかいを出している"感じ(笑)だったけれど、今回は、ダンディーな男性とその妻という大人のカップルがお互いに楽しんでいるという雰囲気になりましたね。マルセロと私は年もわりと近く、同じようにローザンヌのコンクールで賞をとって、それぞれにキャリアを重ねてきましたが、いま、こうして一緒に踊ることができて、意気投合して、同志のような感じでもある──二人のリアルな人生ともリンクしているようにも思えました。
『チーク・トゥ・チーク』 マルセロ・ゴメスと
photo: Shoko Matsuhashi
──『ボレロ』の手応えはいかがでしたか。
上野 毎日、違う舞台になったと思います。今回はなんと3作品踊ってからの『ボレロ』(笑)! 体力的にはもう大変なことになりますが、テクニックというよりも、内側から出していくものがなければ成り立たない作品ですから、出すべきものがなかったらもうお見せできるものがなくなってしまう。そこが勝負でしたね。でも、そんな大変な状態で踊った『ボレロ』は、ものすごくシンプルになったと思います。年齢を重ねると体力的には大変になってくると思いますが、その分、絞り出して踊ろうとする。疲れ切った状態で踊るからこそ出せるものもあるのかなと感じます。
べジャール振付『ボレロ』photo: Shoko Matsuhashi
──『チーク・トゥ・チーク』を踊ってから『ボレロ』までの時間はかなり慌しかったのでは。
上野 『チーク・トゥ・チーク』は髪を上げていたので、それを下ろして、衣裳を変えて──でも汗だくなのでなかなかスムーズにいかなくて、それをもう全部一緒にやって全身チェンジ! もうその準備だけでも壮絶でした(笑)。
──舞台裏の戦いもあったわけですね。
上野 それにしてもこんなにドラマのある公演は初めてでした。マルセロが降板するかも、という話になったとき、友佳理さん(斎藤友佳理芸術監督)が「何とかするから!」とリードしてくれたのは本当に心強かったです。『白鳥の湖』では柄本弾くんが立派にパートナーを務めてくれましたし! もう本番直前までバタバタで大変ではありましたが、その分何か返ってくるものもあったと思いますし、お客さんの反応も本当に嬉しかったです。
『白鳥の湖』第2幕より。柄本 弾と photo: Shoko Matsuhashi
『シャブリエ・ダンス』 柄本 弾と
photo: Shoko Matsuhashi
──今回の渡欧は、ドレスデンだけでなくローザンヌにも行かれたんですよね。
上野 ボーリュ劇場で開催されたローザンヌ国際バレエコンクールの50周年記念ガラに出演してきました。この時は、このコンクールで入賞したことをきっかけに世界に羽ばたいたダンサーたちだけでなく、世界各地からきた一流の指導者たち、それからコンクールに参加してこれから世界に羽ばたこうとしている子供たちという、幅広い世代の人たちが一堂に会す、ほかではとても実現することのない貴重な機会となりました。
──ガラでは『瀕死の白鳥』を?
上野 そうなんです。ロシアのダンサーの美しい『瀕死の白鳥』にはとても憧れるけれど、あんなふうに長い手脚で表現するものと私が表現できることは違いますから、死にゆく白鳥のドラマをしっかり伝えたいと思って取り組みました。
──20名以上のダンサーが出演されていましたが、錚々たるメンバーでしたね。
上野 実はその中で私がいちばん年上で古株でした(笑)! いつの間にかそんなことになっていました。
このローザンヌでの経験も含めて、1月末からの約二週間は、結果的に私の大きな挑戦になったと思います。〈上野水香オン・ステージ〉は、当初は私のバレエ・ダンサーとしての集大成をお届けするという趣旨で始まった公演でしたが、限られたスケジュールの中で、初めてのものも含めてあれだけの数の作品に取り組むなんて経験はこれまでになかったこと。これはもう挑戦でしかなかったです。
この経験は私の力になりましたし、なんというか──自分が踊りたいからとか、踊ると気持ちがいいからとか、そういうことではない部分で、何かの力で「踊らされている」という感覚もあります。運命という感じもします。
一つの区切り目の公演ではありましたが、『ボレロ』のような、ある意味少しスピリチュアルな作品に向き合うことで、区切り目なんて溶けてなくなって、ずっと繋がっていくような感覚にも。東京バレエ団のダンサーたちや指導者、スタッフなど、皆の力が集まってきたのもすごく強く感じられたので、ここで終わりにはできないなっていう思いもあります。
──〈上野水香オン・ステージ〉は6月の川口、岡山での公演が決まっています。
上野 今から楽しみです。お客さまが喜んでくださっているのが本当に伝わってくるのでもっともっと多くの皆さまにお届けできたらと思っています!