
金森穣振付『かぐや姫』第2幕の世界初演まであと1週間を切りました! 今回は、ヒロイン・かぐや姫と対をなし、強烈な存在感を放つオリジナル・キャラクター、影姫を演じる沖香菜子が登場。金森穣作品への取り組み、クリエーションへの思いを語ります。
──金森さんのリハーサルにのぞまれて、どんな印象を持たれていますか。
沖香菜子 穣さんの中には、はっきりとしたとしたビジョンやゴール、完成形がありますから、そこに私たちがいかに近づけるか、いかにそれを表現しきれるかということが課題です。振付をされているまさにご本人がそこにいらっしゃるわけですから、彼が導くとおりに、自分がそれをしっかりと消化し、理解し、表現していくか、ですね。
──今回演じる影姫は、帝の正室という設定ですが、金森さんのオリジナルのキャラクターだそうですね。
沖 彼女のバックグラウンドについて聞いて、影姫ってこういう女性なのかなと自分で想像する部分もあるけれど、正解はどこにあるかというと、穣さんの思い描く影姫ですから、そこをちゃんと理解する必要があります。
影姫は、ヒロインのかぐや姫とは対照的な、鏡のような存在として登場します。かぐや姫が明るくて、光り輝いて、周り皆をぐいぐいとひきつけていくのに対して、影姫は帝の正室という地位も権力も持っているけれど、周りの人たちは影姫その人自身を慕っているわけではなく、その地位、権力ゆえに従っているだけ。影姫自身も多分その状況をわかってはいるけれど、芯が強い彼女は、その力を利用して周囲の人々を従わせているんです。
──権力だけでなく、美しさも兼ね備えている......。
沖 そこは、よくわからないんですよね。というのも、美しさで周囲の人々をひきつけているのではなくて、力だけで、皆を従わせている女性なんだと思うんです。ただ、私が想像する影姫と、穣さんの中の影姫とが一致していないといけない。そこがとても難しいところです。
同時に私は、彼女のその強さを前面に出すいっぽうで、弱い部分を他の人に見せたくないという一面も感じているんです。たとえば、ふと目が合った帝に無視されてしまうシーンがあるんです。それを見送る影姫はとても切ない気持ちになるのだけれど、そういった気持ちを誰にも見せたくないし、知られたくもない。そんなワンシーンですが、そういうふとした瞬間の影姫の気持ちを、その後ろ姿でも表現することができるのかなと。
地位も権力もありつつ、孤独な帝のことを愛しているのに、彼は振り向いてくれない。しかも帝はかぐや姫に惹かれていく。影姫はさらに孤独を深めていって、かぐや姫に嫉妬する気持ちもわいてくる。影姫は悪役なのかどうかというと、そうではないのかなと感じています。
──見応えある場面もたくさんありますね。たとえば最初のほうに登場するパ・ド・サンク。
沖 4人の大臣と踊ります。帝が振り向いてくれない、愛してくれないと感じている彼女が、大臣たちと憂さ晴らしというか、気晴らししている場面です。遊んでいるといっても、彼女のパワーで従わせて、何か自尊心を保っているようにも思えます。そうして、自分の地位を自分で確認して、満足しようとしているのかなとも。
『かぐや姫』第2幕リハーサルより
photo: Shoko Matushashi
──金森さんの動きの特徴というのは?
沖 手の使い方ひとつとっても、クラシックでは普通に柔らかく伸ばすところを、穣さんはこう、ピンと伸ばして力強さを出すとか、クラシックの範囲内に収まらない動きがたくさんあります。複雑になってくると、自分の中で考えても考えてもわからないところがあって、でも、穣さんがたった1回やって見せてくださるだけで、「そういうことか!」と瞬時に理解できたりするんです。ただし、それを自分のものにできるかどうかというとそれはまた難しいのですが。いずれにしても、穣さんが見せてくれるものが正解だということが、はっきりわかります。
──かぐや姫が詩集を読むシーンがあります。
沖 かぐや姫の読んでいる詩集が、実は影姫も愛読していた詩集だという設定ですが、二人は真逆ながら、何かどこかで繋がっているところがあるということが示されます。そこから、帝とかぐや姫、影姫のパ・ド・トロワが続くのですが、帝はかぐや姫のことしか見ていないし、近寄っていっても振り払われてしまう──。本当に切ないです。
『かぐや姫』第2幕リハーサルより
photo: Shoko Matushashi
──役作りにおいて、金森さんからどんなアドバイスがありましたか。
沖 優しくなりすぎている、と言われています。私自身はより強い表現をと考えつつ演じていたのだけれど、穣さんにとっては「まだまだ優しい」──。もっと冷酷で、本当に強くて、男たちを力でねじ伏せるくらいの強さが必要なんだと思います。実は私、今までこういった強い役柄って経験がなかったんです。強いてあげれば『白鳥の湖』の黒鳥やナポリ、でしょうか。
──強めの役と聞いて意外に思う人も多いのでは。
沖 第2幕の最初のリハーサルに入った頃、ちょうど『ロミオとジュリエット』のリハーサルに取り組んでいたのですが、金森さんにジュリエットを演じるとお話ししたら、「影姫と全く逆だね!」と驚かれました。これまでこうした強めの役に配されることがなかったと知ると、さらに驚かれて(笑)。穣さんが私の舞台をご覧になったのは、多分『ドリーム・タイム』(キリアン振付)だったと思いますが、それほど強さが強調される作品ではないけれど、何か私の中に強いものを感じとってくださったのかもしれません。
『かぐや姫』第2幕リハーサルより
photo: Shoko Matushashi
──どんな舞台になるのか楽しみです!
沖 今回の『かぐや姫』は第2幕のみの上演ですが、そこだけでも一つの作品として観ることができる舞台になると思います。ただ『かぐや姫』の物語をなぞるだけの舞台にはならないし、穣さんの『かぐや姫』の世界観というか、宮廷のイメージが前面に打ち出される──。見応えある舞台になるはずです。
──秋には全3幕としての世界初演が控えています。
沖 あらためて考えると、私たちが入団した頃にはすでに『ザ・カブキ』があったわけですよね。東京バレエ団にしかないこの作品を、初演の頃の先輩たちはこうやって作り上げていたのかな、と思うことがあります。いま作っているこの作品が、20年後くらいにはもう当たり前のものとしてバレエ団にあるのかなと思うと、すごく不思議! その最初に携わることができるってすごいことだし、そういうタイミングにバレエ団で活動できていることも嬉しく思います。第3幕がどうなるか私たちもわかっていないので、楽しみにしているんです。
東京バレエ団は、そのあとすぐに『眠れる森の美女』の新制作を控えています。同じ時期に新しい全幕作品を2つも上演するなんて、東京バレエ団、攻めていますよね(笑)。全力でやりきりますので、多くの皆さんに観ていただきたいと思っています。