
今回のブログは、7月のオーストラリア公演『ジゼル』でミルタ役デビューを果たした平木菜子の登場です。初役への挑戦、緊張感あふれる舞台の様子など、現地での写真とともにお届けします!
──海外公演お疲れさまでした! メルボルンはどうでしたか。
平木菜子 寒かったです。ほとんど劇場入りしていましたから、そこまで辛いわけではなかったのですが、驚いたのは物価の高さです。お水を買うにも400円、500円。少しカフェに立ち寄っただけで、ディナー分くらいのお値段になってしまう! おかげで帰国してからも金銭感覚が少しおかしくなっていて、普段ならコンビニで買い物すると「ちょっとお高め?」って思いますけど、「あれ? コンビニなのに安い」って思うように。これから気をつけないといけませんね(笑)。
──東京バレエ団に入団してから、初の海外公演参加でしたね。
平木 ハンブルク・バレエ団での経験があったので、海外の舞台も戸惑いなく取り組めました。とはいっても、『ジゼル』11公演。全公演こなすと、やはり体力的に消耗しますね。マチネ、ソワレと2公演の日もありましたし、1公演のみの日もリハーサルをしっかりやるので2公演分踊るのと同じ感覚でしたから。しかも東京に戻ってきたら今度はこの暑さ。たっぷり睡眠をとるようにしています。
──そして、ミルタという大役を果たしました!
平木 2週目の最初の日のマチネ、それから2日あけてもう1回、踊らせてもらいました。5月の東京公演ではミルタのアンダーを務めていたのですが、私は東京バレエ団での『ジゼル』は初めてだったので、そのときは自分の役──1幕のパ・ド・シスと2幕のウィリに集中せざるを得ない状況でした。その後、友佳理さんと志織先生に特訓をしていただいたんです。本当にありがたいですね。とても細かく、守らなければいけないことをたっぷりと教えてもらいました。それを自分の身体に入れながら、でも自分のミルタも出していきたいので、そこをうまくミックスできたらと思っていました。
──ミルタというキャラクターばどのように捉えて取り組みましたか。
平木 ウィリたちをまとめるボスですが、自分自身もウィリの一人。なりたくてなったわけではないけれど、この世界にいる限りは、そこでやっていかなければならない。そんな彼女の思いを意識しながら演じるようにしていました。もちろん強さは出していかなければならないけれど、そこは自然に入っていけたように思います。あ、そうなると私、普段から性格悪いみたいになっちゃいますよね(笑)。
──絶対にそんなことないです(笑)。
平木 むしろ、あの音楽と空間とあの振付だからこそ、そういう雰囲気に自然となれるのではないかと思います。舞台では、とにかく集中しながら一つひとつ丁寧に、を心がけていました。ミルタとして舞台に存在する時間が長いので、先々のことは考えずに、落ち着いて一つひとつを大切にして──。
──手応えは?
平木 そうですね......、またチャレンジさせてもらえる機会があったら、という思いもあるけれど、今回やり通せたことは自信に繋がるのかな、と思います。ミルタ役の先輩たちに「よくやったよね!」と声をかけてもらって、嬉しかったですね。ミルタがどれだけ大変な役か経験されてきた皆さんですから、とても嬉しく思いました。
──大変な役柄の大変なポイントってどんなところですか。たとえば第2幕冒頭の登場シーン?
平木 あれほど静寂な場面に、一人で出てきていきなりパンシェするのは本当に恐ろしいです。しかも真っ暗。そのうえスモークがたかれているので、よけいに世界が開けてこない。その状況からのいきなりのパンシェなんです。そのあともずっと自分との戦いです(笑)。とくに最後のソロの部分は、ジュッテ・アチチュードで出てきて、ソ・デ・バスクのマネージュがあってと、跳ぶパが多くてまるで男性の踊り! 最終的にはコール・ドを率いての見せ場になりますが、そこで急に限界がきて身体が動かなくなるんです。しびれてくるような感じがして、でもそこで力を振り絞って、「よし、行こう!」と。その感覚は、ハードな踊りを踊るときに時々経験することなので、何かこう、不思議な時間、不思議な瞬間でした。これ以上動けない! と感じている中で動いている自分がいて──。
──何かが見えた、ような?
平木 そんな感じです(笑)。実際に踊ってみないとわからないことがあるなと思いました。踊りきったときは達成感を感じましたし、清々しさもありました。見えてきた課題もあります。
──課題というと?
平木 足音と、足をもっとしっかり使って下りること、ですね。足音については実はこれまであまり指摘されたことがなかったんです。海外だと普通に、硬いままの新品のシューズで本番を踊ったりするんですよ。実は私もそういうタイプでした。これからは少しずつ、シューズの工夫もしていきたいと思います。
──会場はすごく盛り上がっていたそうですね。
平木 メルボルンの州立劇場は東京文化会館に比べるとずっとコンパクトな劇場でしたが、あの素敵な劇場で、自分一人だけで見せる時間を過ごすことができて本当に楽しかったです。お客さまもとても温かく、一つ踊り終えてポーズすると、「ワーッ」って盛り上がる! 次のソロも頑張れる力をもらったように思います。カーテンコールなんてコール・ドに「ヒュー!ヒュー!!」です(笑)。ああ、今日も頑張れてよかった、明日も頑張ろうって思いました。
──2023年の前半はミルタ役挑戦をはじめ、充実のときを過ごされたようですね。
平木 実は私、6月にハンブルクに行ってきました。ハンブルク・バレエ団50周年の記念で歴代のダンサーたちが集まってのパーティーがあったんです。参加するかどうかギリギリまで悩んでいたのですが、バレエ団に相談したところ「ぜひ行ってらっしゃいと」送り出してくれました。
──思い出の街ですね。
平木 すごくいい時間でした。皆でレッスンを受けたり、ラートハウス(市庁舎)で大々的に催されたパーティーに参加したり、ハンブルク・バレエ週間のオープニングの『ロミオとジュリエット』を観ることもできました。クランコ版も、先日英国ロイヤル・バレエ団の日本公演で観たマクミラン版も素敵ですが、ノイマイヤー版もやっぱりすごく素敵なんです。わたしはハンブルク・バレエ団でずっとノイマイヤー版を踊ってきたので、それをまた生で観ることができて本当に嬉しく思いました。こういう経験をするととても新鮮な気持ちになりますね。刺激もいっぱいもらいました。
それがあってからのオーストラリア公演でしたから、続けて二度も海外に行くチャンスをもらって、いろんなインスピレーションを与えられたようにも感じています。モチベーションも高まっていますから、今後の舞台にめいっぱい活かしていきたいと思っています!