
『かぐや姫』全3幕の世界初演を無事終えて、東京バレエ団はいよいよ新制作『眠れる森の美女』上演にむけて全力疾走中! 芸術監督の斎藤友佳理が振付ける今回の『眠り』では、リラの精が大活躍。演じるのは政本絵美、榊優美枝、中島映理子の三人。彼女たちが、役作りや見どころについてたっぷり語る開幕直前スペシャルの前後編シリーズ。前編の話題は、それぞれが抱いているリラ像について、です!
──皆さん、新制作『眠れる森の美女』でリラの精を演じることが決まったときは、どんな気持ちでしたか。
政本絵美 すごく嬉しかったです。演じたいと思っていた役でした。子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』(『子ねむり』、2012年より上演)ではリラの精を踊っていましたが、東京バレエ団オリジナルの全幕『眠り』でも演じることができたらいいな、とずっと思っていたので、素直に嬉しかったんです。これまで踊ってきたから全幕でも役がもらえて当たり前、というわけでは全然ないので、本当にありがとうございますって思いました。光栄に思います。
榊優美枝 私も嬉しかったです。が、大丈夫かなっていう気持ちのほうが大きかったですね。私も『子ねむり』でリラの精を踊らせてもらいましたが、全幕になるとまた全然違いますから、少し不安はあります。周りの人たちからは「リラの精に合っているね」と言ってもらえることが多かったので、そこは自信をもって、もう一回り大きくなって演じることができたらと思っているんです。
子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』より。
中央がリラの精を演じる政本絵美
photo: Kiyonori Hasegawa
──『子ねむり』の時はすごく役に入りこんで取り組んでいましたよね。日常生活でも常に人を諭すような笑みを浮かべてしまうとか......。
榊 そうでした(笑)。でも今回、リラの精のリハーサルをしてみたら、『子ねむり』とはだいぶ印象が変わるなって思います。『子ねむり』のリラは、周りの人たち、引き連れてくる妖精たちとも同じレベルの存在という印象でしたが、今度の全幕のリラはもっと"神"のような存在で、もう完全にレベルが違う。その感じを出さなければいけないんですよね。
政本 演出コンセプトを手掛けられたニコライ・フョードロフさんも、「リラの精は神で、すべてを支配している存在」とおっしゃっていました。
子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』より。右から3番目がリラの精の榊優美枝
photo: Kiyonori Hasegawa
──中島さんは今回の全幕で初めてリラの精に挑戦するんですよね。「リラの精を」と告げられたときはどんな気持ちでしたか。
中島映理子 実は告げられてはいなくて(笑)、貼り出された配役表を見て知ったので、ああ、私リラだ......と! でも本当は、自分はリラの精に合っているなんて思ったこともなかったんです。『子ねむり』ではフロリナ王女を踊っていますが、リラの精はアンダーにも入っていませんでしたし、妖精さえ踊っていません。
政本 入団してわりとすぐだったんですよね。
中島 3月に入団して、公演は8月でしたから。実際、自分がリラの精のような、妖精や従者たちをたくさん引き連れるような強さ、そんな雰囲気はあまり持ち合わせていないように思うんですよね。
主役と同じくらいの大きな存在
──しかも今回の『眠り』のリラの精は、主役と同等くらいの大きな役柄だと聞いています。
中島 友佳理さんが、リラを主役並みの存在にしたいとおしゃっていて、だからすごく綺麗な踊りをつくりたいとも。リラの精はオーロラの名づけ親なんですよね。
政本 ゴッドマザー、ですね。
中島 そんな役に見合うキャリアもなければ経験もないので、不安はあります。でも、リラの精がどんな役なのかなと考えてみれば、ただ力強いだけというわけではないんですよね。なので、演じる中で自分らしいところも出せたらいいなと思っているんです。
──今回のリラの精は、デジレのゴッドマザーでもあります。踊りの場面も増えているそうですね。
政本 私はもともと東京バレエ団が上演していた『眠れる森の美女』には全く関わっていないんです。実は、バレエ団のいまのメンバーの中で以前のオリジナルの『眠り』を踊っている人は誰もいなくて、経験しているのは友佳理さんと(佐野)志織先生、それからカズさん(木村和夫)くらい! ダンサーたちが経験しているのはマラーホフ版(2006年バレエ団初演)と、2012年から上演している『子ねむり』だけなんです。
マラーホフ版では、私は5番目にヴァリエーションを踊る妖精ビオラント(熱情の精)に配役されていて、妖精として最後のアポテオーズまで出ていたのが印象に残っています。だから第2幕の森の場面で、オーロラの幻影が踊るヴァリエーションがあるのも知ってはいたんです。音楽がとても美しくて! 今度の新制作では、その場面の踊りをオーロラとリラとでシェアしているんです。驚きました。
政本絵美
──画期的だという前評判ですね。
政本 だから、皆と「リラの精、踊りすぎ?」という話になるくらい(笑)、リラは本当によく踊っています。とくにそう感じるのは第2幕ですね。
榊 物語をリードしている感はありますね。
政本 『子ねむり』では、台詞を喋るカタラビュットがストーリーテラーという印象ですが、今回はどちらかというリラの精がリードしているように感じます。
カギはリラの花の香り
──責任重大ですね。
中島 ......(少し青ざめる)。
政本 大丈夫(笑)! 確かに、『子ねむり』のリラとはやはり違うところがあります。これまでは、何かこう、滲み出る温かさがあって、皆を包んでいく感じでしたが、今回はもっと凛とした、ブレない感じがあります。フョードロフさんに言われたのは、リラの精は、自分が美しくて、皆の視線が注がれているのがわかっている。そういう自覚をもって振る舞うんだということ。──それって、すごいですよね(笑)。
──注目されるのが当たり前、という。
榊 ......それは、絵美さんだけなのかも。
政本 確かに、ダンサーそれぞれによって違うかもしれないけれど。
榊 私はむしろ、本当に優しくて、でも、全部を見ていなくても見えていて、すべてを支配している雰囲気で、と言われています。何かこう、香ってくるような感じとも。だから、すべてを振りではっきりと示すのではなく、全部香っていてほしい、ということなんだと思います。
──それは......、難易度が高そうですね。どうすればいいでしょう。
榊 香水......ですかね。
──......まさか(笑)!
榊 (笑)。でもそう思う理由もあるんです。リラ、つまりライラックの香りなんて普段はあまり気にしていませんでしたが、フランスではとても身近な花だそうで、日本の桜のように毎年春になると香ってくるのだそうです。温かくなってきて、リラの香りがして、春が来たな、と感じるような。『眠り』の登場人物の設定はフランス人ですよね。フランスの人が思う懐かしい香り、ふと気づくと香っている、というのがリラの花なんですね。
秋でいうと金木犀で、その香りで季節の変わり目を感じたり、温かくなってきたな、涼しくなってきたなという気持ちになる。そういう気持ちとイコールで繋がるんだと気づいたら、腑に落ちました。
榊優美枝
──友佳理さんからも何か言われていますか
中島 リラの精の役作りはまだまだのところがありますが、一つ言われているのは、私自身の雰囲気が少し姫っぽい印象なので、オーロラと同じような感じにならないように、ということです。とくに私は、オーロラ姫役の(沖)香菜子さんと似ているとよく言われるので、姫っぽくならないように気をつけなければなと思っています。
──沖さんがオーロラを踊って、中島さんがリラの精という日もありますよね。
中島 そうなんです! だから余計に、姫にはないような優しさを出せるように研究しなければいけません。立っているだけ、という場面もありますから、可愛らしいオーラではなく、優しく、温かい雰囲気を出したい。ただ力強い、というのも違うと思うので、試行錯誤しています。
中島映理子
後編へ続く!