
入団以来、数々の役柄を演じてきた安村圭太。東京バレエ団での2年半で、バレエへの取り組み方、向き合い方にどんな変化が──? あの悪役の意外な事実も明かします。
──入団して約2年半、いろんな役に挑戦してきましたね。
安村圭太 たとえば、クランコ版『ロミオとジュリエット』でのティボルト。印象的でしたね。自分一人だけが初めて、というのは結構なプレッシャーですが、バレエ団初演作品では皆とスタート地点が一緒。それが良かったです。バレエ団の伝統的な作品では、「あのとき、あの人が踊っていた役」というイメージが必ずある。ただ、『ロミジュリ』の場合は、指導に来てくださっていたジェーン・ボーン先生がイメージするティボルト像と、僕がやりたいと考えていたティボルトをひたすら擦り合わせていく作業。やりがいがありました。
──ドラマティックな作品だからこそ、という面もあるのでは。
安村 たとえば『くるみ割り人形』の物語だったら、文字に起こすのは一瞬でできるかもしれない。でも『ロミジュリ』は出てくるキャラクターの感情とかドラマ性の密度がより濃いから、皆で考える時間も多い。『ジゼル』でもそうでしたが、どの人物も、他の人の演技も理解していないと成立しないところがある。そこが面白いですね。
クランコ振付『ロミオとジュリエット』より、ティボルト
photo: Shoko Matsuhashi
──『ジゼル』ではヒラリオンを演じたそうですね。
安村 オーストラリア公演で演じました。あのときの海外公演は1都市だけでしたから、皆に聞くと割と平和なスケジュールで(笑)、1つの劇場で、ずっと同じ環境で積み上げていくことができました。
ヒラリオンは以前所属していたバレエ団でも演じていたので、まずは一度、自分の思うようにリハーサルをして、修正をしていただくつもりでいました。ところが一度リハーサルをしたあと、友佳理さん(斎藤友佳理芸術監督)は「そういうやり方もあるのね。私も勉強になるし、私はこうしたほうがいいと思って言うけれど、全部やろうとしなくていい」と言ってくれたんです。岡崎隼也さん、鳥海創くんと僕とのトリプルキャストでしたが、皆、絶対に同じヒラリオンにならないでほしい、さらに、毎回の舞台で必ず違う何かを感じてほしい、気持ちの流れは毎回違っていていいとも。
オーストラリア公演の舞台裏、ヒラリオンの衣裳で。
──ご自身で考えていたヒラリオン像というのは?
安村 僕が思っていたのは、悪意が全くないヒラリオンです。ジゼルにアルブレヒトのことを「あの人はダメだよ」と伝えるのは、自分の中では正義というか、彼女のためを思ってのこと。アルブレヒトに対して、怒りとか、嫉妬はあっても、懲らしめてやろうなんて気持ちは全く抱かないんです。僕の思う『ジゼル』の面白さって、誰にも悪意などなく、皆がジゼルのことを思った結果、悲劇につながるというところ。すごく人間らしいなと感じます。『白鳥の湖』のロットバルトや『眠れる森の美女』のカラボスみたいに、ただ意味もなく純粋に悪い人はいないんです。そうですね、いつか、東京でヒラリオンを演じる機会があればいいなと思っています。
──その、純粋に悪い人のことも聞かせてください。
安村 ロットバルトを演じました。最近はロットバルトもカラボスも、結構掘り下げて語られるようになった印象がありますが、ブルメイステル版のロットバルトは本当に楽しい! 第3幕のロットバルトはもう、自分が思った通りに全員が動いてくれるし、オディールが32回転回って注目されるのも自分のおかげ、くらいな感じです。後ろで笑っているだけでなんですけど、「やってやったぜ!」「よっしゃ!!」みたいな(笑)。ブルメイステル版の第3幕のこの場面は、視点を誘導しているというか、オディールがふっと出てきたと思ったらまたいなくなって、別の女性がでてきたと思ったらまたこっちに出てきてというくだりがすごく面白い。実際に自分がやってみると、かなり計算されていることがわかって、本当に良くできているなと思いました。
第3幕の、ここまで大掛かりなドッキリを仕掛けるロットバルトの行動って、シンプルに人を痛めつけるだけではつまらない、ということなんだと思うんです。できるだけ人が悲しんだり、騙されたりするのを見て喜ぶ。それを楽しんでいるんですよね。
──たしかに、大きな羽をバサバサさせて悪い人アピールするのは気持ちよさそうですね。
安村 あの大きい羽──応援団みたいですけど、あれは筋肉痛になるほど重い。しかも、簡単には外せない! 衣裳と一体化していて、舞台上の高いところに出てきたら、もう、そのまま降りることもできないんです(笑)。
──一度引っ込みますが、ずっとそのまま?
安村 ずっとです。セットの上の見えないところにゴソゴソと引っ込んで、そのままゴロンと横になって、2幕の間中、ずっと横になっているんです(笑)。毛布みたいなあの羽に包まれたまま、舞台を見ることもできず、ずっと鳴っている素敵な音楽を聴きながら──。
──つい、ウトウトしてしまいそうですね!
安村 出番が近づいたら、ちゃんと合図があります(笑)。
ブルメイステル版『白鳥の湖』より、ロットバルト
photo: Kiyonori Hasegawa
──悪めの役は他にも経験されていますか?
安村 金森穣さんの『かぐや姫』では、宮廷の男性は全員悪者のような雰囲気でしたが、僕が演じた4人の大臣は、結構"美味しい役"、でした。周りの男性はいろいろやることが多かったけれど、僕ら大臣は短い出番でバンバン美味しいところをもっていくわけです(笑)。男性4人で踊るという機会もこれまではあまりなかったので、楽しかったですね。
金森穣振付『かぐや姫』全3幕より。手前の真ん中が安村。
photo: Shoko Matsuhashi
──男性メインのシーンは、東京バレエ団ならではですね。
安村 10月の『ザ・カブキ』もすごく楽しみにしているんです。ベジャール作品は『ギリシャの踊り』や『中国の不思議な役人』を踊っていますが、東京バレエ団といえば『ザ・カブキ』ですし、いつか関われたらいいなと思っていました。思ったより早く実現することがわかって嬉しく思います。とはいっても、実際の舞台を観ていないので、周りの人に「安村さんは◯◯役が似合いそうですね」とか「圭太さんは××役が合うと思う」て言われてもよくわかっていないところがあって、「ありがとう──でも、それってどういう役だろう?」という状態です(笑)。
──直近では〈上野水香オン・ステージ2024〉での『ドン・キホーテ』の抜粋に出演を。
安村 エスパーダ役は、東京バレエ団に入団してわりとすぐに、子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』で取り組んで以来、度々踊っています。今回踊るのは結婚式の場面のファンダンゴですが、実は、2022年11月に行われた〈〜語り継ぐバレエの軌跡〜 マエストロ福田一雄のドリーム・プロジェクト スペシャル・ガラ「バレエの情景」〉で、(伝田)陽美さんと一緒に、今回上演するのと近い形で踊っています。全幕ヴァージョンのファンダンゴです。
──それにしても、2年半の間に本当にいろんな役に挑戦しています。バレエへの向き合い方とか、取り組み方とか、変化はありましたか。
安村 東京バレエ団では、たとえば『白鳥の湖』はブルメイステル、『ロミオとジュリエット』はクランコ版、いっぽうでベジャール作品も上演する。振付家によって踊り方も、演じ方も、見せ方も違う。指導者が違えばリハーサルの仕方も違いますし、いろんな正解がある。踊りの多様性みたいなことを、知識としてでなく、自分で本当に実感できるのはすごく面白いし、バレエってある意味自由なんだなと、改めて思ったんです。日本でもっともグローバルに活躍でしているカンパニーのひとつだと思いますし、それを自分の感覚として体感できて、すごく広げてもらえた。何か違う価値観に触れたときに、「そういうのもありなんだ」と捉えることが大事かなと感じるので、常に自分を固めすぎず、フレッシュでいたいな、と思うんです。
前回、ここでお話させてもらったときは、東京バレエ団のジョーカーみたいな存在になりたい、何か足りないところがあって、必要とされたらすぐに入れる、そんなダンサーになりたい、というようなことを言っていたのですが、それについてはある程度叶ったように感じます。これからは、何か違う面というか、意外な何か──こういうこともできるんだ!という面も見せることができるようになれたら、と思っています。