
ブルメイステル版『白鳥の湖』のリハーサルはいよいよ佳境へと突入。今回は道化役で活躍の3人、池本祥真、井福俊太郎、山下湧吾が集結、道化役を深掘りします。池本はプリンシパルに昇進後、初のブログ登場です!![]()
左から池本祥真、井福俊太郎、山下湧吾
──まずは皆さんの、"道化歴"を教えてください。
池本祥真 実は、プロになって最初に踊った役が道化でした。初舞台はロシアのカンパニーでしたが、そのときのことはよく覚えています。道化のちょっと愉快な走り方、あの独特の空気感や居方、王子との関係性をどう表現するか──すべてロシア人の先生から教わったのですが、あのときの体験が、いまの僕のベースになっていると感じます。
2022年の舞台より。池本祥真
photo: Shoko Matsuhashi
──2018年の『白鳥の湖』で、池本祥真×井福俊太郎のダブルキャストでの道化が実現しました。
井福俊太郎 2016年の、ブルメイステル版のバレエ団初演時にも道化のリハーサルに取り組んでいたのですが、その年実際に配役されたのは、第3幕で道化に従って登場する"四人の道化"。ちょっと苦い思い出です。
山下湧吾 2018年の時点では僕はまだ研修生でしたが、四人の道化に配役されて、お二人とご一緒させてもらいました。ただもうニコニコして踊っていました(笑)。翌年の〈上野の森バレエホリデイ〉では、お話し付きで第3幕を抜粋で上演する「はじめての『白鳥の湖』」の道化に挑戦させてもらったのですが、全幕で演じるのは今回が初めてです。
2018年の舞台より、初の道化役にのぞんだ井福俊太郎。
photo: Kiyonori Hasegawa
──初挑戦の湧吾さん、リハーサルは順調ですか。
山下 道化は王子の良き友人であり、とくに第1幕では王子の一番身近な人間。でも常に周りを見て、気を配って、王子だけでなく、王妃や他の貴族たちのことも全部把握できている人間でもある、と祥真さん、俊太郎さんからアドバイスをもらっています。
池本 (うなずく)
山下 常に余裕をもって、その時々の状況に対応していって、ムードメーカーの役割を果たすんですよね。振りは決まっているけれど、ずっと舞台上の全部を把握して動かなければいけないんです。
池本 実は王子って、何もしないものらしくて、一方の道化は全部に気を配って、王子がこっちに行くなと思ったら、「こっちへどうぞ」と先回りする。そこに人がいたら「あ、じゃあこっちにどうぞ」と人を散らばせて、何か欲しそうだな、と思ったらそれを持っていく。
池本祥真
──王子が「これ飲みたい、あれ食べたい」と言えば、即、取りに行く?
池本 いや、言う前にです! 「飲もうかな」って思ったときには既に飲み物持って待っています。「これ、要りますよねー?」と(笑)。ただの盛り上げ役ではなくて、賢くないといけないということは、友佳理さん(斎藤友佳理芸術監督)からも言われています。王子に意見できるのは唯一道化だけ、とも言われますね。
──道化は君主に自由に物言える存在なんですよね。でも、何度も舞台を重ねていると、先回りするはずがダメだった......、なんてハプニングもあったのでは?
池本 そんなときも冷静に対処して、笑いに変えます(笑)。
2022年の舞台より、第3幕。手前の道化は池本祥真。
後方の四人の道化のうち、左端が井福俊太郎、右から二番目が山下湧吾。
photo: Kiyonori Hasegawa
──では、道化独特の居方については、どんなふうに捉えていますか。
井福 周りにいる貴族たちと王子との関係は、それほど長く深い付き合いではないと思うんです。王子に初めて会う人もいるかもしれない。でも王子と王妃と道化は、ずっと一緒にいる。相手のことを知っているレベルが違う。その差も見せていきたいなと思うんです。
池本 難しいこと言う......。
井福 僕は祥真さんの扱いは結構慣れていますから(笑)、ああ、いまこうだなっていうのはわかるじゃないですか。
池本 ......(笑)。
井福 「あれ、今日は機嫌が悪い」とか「実はあれで楽しいんだよ」ってすぐわかる。でも、入団したてだったりすると、なかなかわかりませんよね。道化も、王子のことをよくわかっていているからこそこう動く、みたいなところを出していきたい。
井福俊太郎
山下 お二人にはいろいろ教えてもらっています。テクニックも演技も、どんなに細かいことでも、聞けば本当に教えてくれて、ありがたく思います。
池本 でも、それは絶対じゃない。もちろん決まった振りもあるし、やらなければいけないこともあるけど、より自由なところもあって、そこはダンサーによって違ってくるもの。とくに道化は、その日の空気でもう少しふざけたほうが盛り上がるなとか、客席の反応とか周りのリアクションを見て、今日はもっとこうしようとか、そうやって遊べる珍しい存在なんです。その時々の演技が、舞台の盛り上がりや充実度に繋がっていく。僕はそういう思いで取り組んでいます。ただ、初めての挑戦で戸惑うこともあるはずだし、こういうことを知っておくと後々困らないかも、ということは伝えてあげたいなと。
山下 ありがとうございます。
井福 たしかに、劇場に入ってオケの音を聴くまでは、どのやり方でやるべきか決められないこともある。
池本 周りを見ながら決めていく臨機応変なところは必要。お客さんがここでこう盛り上がってくれるんだったら自分もこうやって盛り上げなきゃと感じられないと、厳しいかもしれない。
山下 僕にとってはもう、課題しかないです──。絶対にクリアにしておかなければいけないテクニックもありますが、それ以上に演技の部分がまだ詰め切れていない。通しで踊りながら、自分の中で落とし込んでいかなければ、です。
たとえば第1幕、王子がマンドリンを持って踊るシーンがありますね。彼がすごく思い悩んで鬱々と沈んでいる場面。それまで楽しそうだった王子が、急に乗り気でなくなるんです。友佳理さんからは、「あなたが王子の一番の友人で近しい人なのだから、心配してあげなきゃいけない」と言われているのですが、じゃあどんなふうに王子を心配するのかなって考えると、すごく難しい。祥真さんのリハーサルを見ると、祥真さんの考える道化のあり方、居方がすごく反映されているなと感じます。僕がやらなければいけないのは、その場面のその状況で役割を全うすることだけでなくて、個人としてどうあるべきか、追求することなんです。
第1幕、マンドリンを手にする王子の表情はすこぶる暗い。
photo: Shoko Matsuhashi
井福 周りの王子の友人たちが王子の変化に気づいて、「あれ?」って思うところですよね。そこで場の空気もちょっと変わってくるので、僕は周りの人たちに話しかけたりして、周りの空気からよくしていこうって考えたりしています。何かが起こったときの周りの空気感は日によって違うし、リハーサルでは見られなかった反応が出てくることもある。そんな中での道化の役割は、暗くなってしまったその場の空気の、反対側の空気を作り、その後の明るい踊りに繋いでいくことなのかなって思います。空気が動かないまま踊りを並べたとしても、ただのヴァリエーション集の上演になってしまう。全幕バレエなのだから、そこは大事にしたいですね。
山下 役の重さをひしひしと感じています......。まだまだピルエットだ、ジャンプだとテクニックに気を取られてしまうと、道化としての意識がとんでしまう。「演技をしようとしているのはすごくわかるけれど、テクニックに入るとフッといつもの湧吾に戻る」って、友佳理さんから注意を受けました。振りに追われている。練習を重ねつつ、先輩の踊りを見つつ──二人の違う道化がいて、吸収できるものが二つあるのだから、そこから自分に合うものを見つけたり、もしくは自分で探したりして、役を深めていきたいですね。
──ところで、ブルメイステル版の魅力ってどんなところにあると思いますか。
井福 個人的にはABT のマッケンジー版も好きなんですが、ブルメイステル版はやっぱり面白いですよね。すごく演劇的。
山下 大好きです! 僕はロシアのオーソドックスな『白鳥の湖』しか知らなかったのですが、演劇性の強いこのヴァージョンは本当にワクワクしますし、心を動かされます。それは、東京バレエ団に心を動かせるダンサーが多いから、とも感じています。
山下湧吾
池本 『白鳥』といえばマシュー・ボーンも大好きなんですが、それはまたの機会にしておいて(笑)、ブルメイステル版をこのクオリティで上演できるカンパニーはあまりないのではないかと。昔ながらの決まり事がいっぱいあるキャラクター・ダンスにも、しっかり取り組める環境があります。
井福 個人的な目標としては、安全牌で終わらせないこと、ですね。
池本 昔、パトリック・デュポンが東京バレエ団に来て道化をやっていたじゃないですか。あれくらい盛り上げられたら!
井福 僕はいつもテクニックが心配で、緊張するし、手汗もすごくかくし、でも、そこを安全なところでやってしまうと、全然面白い踊りにはならない。そこをグッとこらえて全力でのぞむことが必要なんです。正直なところ、ピルエットがそんなに好きで得意でというわけではないけれど、そういうダンサーが全力で回り切る。それが大事ですよね。そう、たとえば、打率の低い選手のホームランが面白いのと一緒。
池本 野球の話......(笑)。いや、道化が安全牌なんて意味がない!
井福 そう。なので、やります。
山下 頑張ります! 多くの皆さんに楽しんでいただきたいですね。
2019年の舞台。写真の道化は井福俊太郎。四人の道化には池本祥真、山下湧吾の姿も。
photo: Shoko Matsuhashi