
国内では6年ぶりの上演となる『ザ・カブキ』。今回は、ヒロイン顔世御前に初役で取り組む金子仁美と榊優美枝が登場! この夏の舞台での経験や、顔世への意気込みなどを語り合います。
──榊さんは『白鳥の湖』全幕での初主演直前の登場以来ですね。古典全幕の主役を踊る前と後とでは、バレエへの取り組みや方や生活に変化はありましたか。
榊優美枝 あまりない、ように思います。何をやるにしてもさほど変わらないけれど、外部の取材を受ける機会が多くなったり、たくさんの方々に見ていただいているんだなと感じたりすることが多くなりました。
金子仁美 変わったことがあるとしたら、たとえば、後輩の皆の憧れや尊敬の対象にもなるわけだから、それにはしっかり応えなければって感じるようになりましたね。
榊 ──何も考えていなかった(笑)! でも、真ん中を支える周りがすごく大事なんだなということを、なおさら強く感じるようになりました。とくに第3幕は皆が後ろで気迫を出してくれるからこそ、真ん中も良く見せることができた。2幕についても、あれだけ綺麗なコール・ドが周りにいるからこそ、真ん中が際立つ。皆に助けられました。
金子 『くるみ割り人形』の第2幕も、周りに花のワルツのダンサーたちがいてくれて、踊りながら一体となっている感じはすごくあります。皆の存在はとても大事です。
──『白鳥』のあとは『ロミオとジュリエット』、それから子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』があって──。
金子 〈ダイヤモンド・セレブレーション〉も! 私は3年ぶりに『ドリーム・タイム』を踊りました。その前には世界バレエフェスティバル全幕特別プロでの『ラ・バヤデール』もありました。
──マリアネラ・ヌニェスやオリガ・スミルノワが客演しましたね。海外からのスターを主役カップルに迎えるのは久しぶりのことでしたが、いかがでしたか。
金子 素晴らしかったです。なんかこう──実在するんだ!?って思いました。スミルノワは、10年くらい前の〈マラーホフの贈り物〉(2013年5月)で『白鳥の湖』第2幕に主演しているのですが、そのときも彼女の踊りを近くで見ています。スミルノワはまだプリンシパルになる前で、将来有望のダンサーとして注目されていました。私、確か彼女と同い年で誕生日も近くて、だからよく覚えているんです。至近距離から見た彼女、本当に素晴らしくて、身体の使い方が全然違う!! 見惚れちゃいました。
榊 でも、舞台裏での彼女を見ると、舞台のためにいかに努力しているかということもわかりました。ヌニェスもそうでしたが、誰よりも早くスタジオに来て、クラス前にエクササイズに取り組んでいて。
金子 リハーサルでの自分に納得いかなくて、落ち込むような場面も。ここまで上り詰めた人が、これだけ追求している! 自分たちも決してここで満足せずに求めていかなければ、と思いました。スターだから「別次元」だなんて思ってはいけないんですよね。ポテンシャルは違うかもしれないけれど、舞台に立つうえでのマインドは変わらないのだから。
──そしていよいよ『ザ・カブキ』での顔世御前役デビュー。国内では6年ぶりの上演となりますね。
金子 鞠歌(第五場)、それから一力茶屋(第七場)の遊女たち。前回は遊女を演じました。
榊 私は第一場の侍女、山崎街道(第六場)では木の役も。第八場の最後、波を演じたことも強く印象に残っています。
──海外公演では、現地のエキストラに加えて女性ダンサーが四十七士に参加する場合がありますが。
榊 やりたかったー。顔世を踊る日以外にやれるものなら四十七士をやりたい(笑)。
金子 あの格好、してみたい!
榊 『ザ・カブキ』の魅力はやっぱり男性です。討ち入りから「涅槃」の場面はとくに好きですね。
金子 判官切腹の場面も。音楽が素晴らしいし、見入ってしまいます。
榊 顔世は演じるダンサーによって受ける印象が全然違いますよね。あの衣裳を着て白塗りで同じ振りなのに、その人の中身がすごく出てくる作品だと思います。もちろん古典でも出るわけですが、より顕著に出てくると感じています。
金子 それにしても、白の全身タイツって少し身構えます。『M』のときもかなり身構えました(笑)。しかも顔世のレオタードは素材がツヤツヤ。余計に膨張して見えるような気がする......。
榊 実は私、以前お才役のアンダーを務めていたので、いよいよお才に配役されると思い込んでいました。
金子 私は当初、おかるにキャスティングされていました。おかるはずっと憧れていた役。決まった当初は「わー!おかるだー!」と正直飛び跳ねて喜んでいたんです。なので、いつかチャンスを頂けたらおかるも踊りたいです。
──では、顔世の印象的なシーンといえば?
金子 やはり兜改めのシーンと雪の別れ。顔世役にとっては数少ない「踊る」場面ですね。桜の木を手に、悲しみを背負いながら歩く場面も印象的です。
榊 私も雪の別れの印象がすごく強い。そこからの「波」に出るので、舞台袖で準備しながら見ていました。
金子 そこに至るまで、ずっと静かに悲しみに暮れていた顔世がバッと着物を脱いで、由良之助の手をぐっと掴み、仇討ちを迫る──そこでようやく、彼女は感情を爆発させるんですね。
榊 これだけ自分を抑える人物というのは、バレエでは珍しいキャラクターかと思います。奥ゆかしくて、感情を表に出さない──ベジャールさんだから創ることができたキャラクター、外国の方から見た日本女性のイメージなのかなと感じます。もちろん、私たちは普通に激昂することだってあるけれど、日本の女の人の象徴みたいな存在なのかなと。
金子 ただ、その動かない難しさといったら!
榊 表情もほぼ作れない。そこに居るだけで、どう表現するか──。東京バレエ団独自の作品なので、YouTubeでいろんな人の踊りを見ることもできないし、経験者に直接習うしかない。ご自身でこの役を踊られてきた(斎藤)友佳理さんも、私たちに伝えたいと思ってくれているはずなので、受け取れるだけ受け取り、自分で表現につなげることができたらと思います。
金子 情熱をもってこの役を演じてきた友佳理さんの思いに、精一杯応えたいですね。
──振付の難しさは?
金子 打ち掛けとの戦い(笑)、があります! 黒衣との連携が大事になってくるんですよね。第八場に黒衣で出ていたときは、顔世の着物の裾を持ちました。着物がたるまないように持つのはコツがいるし、音で動くのが基本ですが、顔世のタイミングに合わせないといけない。今回黒衣をやる人たちは皆初めてで、シングルキャスト──。
榊 練習は黒衣の取り合いになるかも(笑)!
──確かに、今回は『ザ・カブキ』初参加のダンサーが多いですね。
金子 友佳理さんも言っていましたが、この作品はバレエ団の宝。その新しい顔世に選ばれたからには、誇りに思ってちゃんと向き合うべきだし、今後につなげなければいけない。伝統を守りつつ、いまの時代の、新しい空気感の『ザ・カブキ』にできたらいいですね。
榊 責任が重く、考えすぎてしまいそうですが、いろんなことに囚われすぎず、自分らしくできたら──。先日、初めて初演のときの映像を見せてもらったんです(顔世御前:岩越千晴)。思っていた以上に柔らかくて女性らしい顔世で、とても美しかった! この役のイメージが変わりました。私は水香さんのようにも、仁美さんのようにも踊れないのはわかっているので、私らしく、顔世を演じることができたらと思っています。