
昨年(2025年)に〈めぐろバレエ祭り〉にて初演され、好評を博した「はじめてのバレエ『白鳥の湖』」。なかでも人気だったのが、客席に語りかける形で物語を解説する道化役のダンサーでした。今年は東京公演のみならず、札幌や福岡など、全国各地を回る本作において道化を演じるのは後藤健太朗と山仁 尚。初演ダンサーでもあるふたりに加え、これまで数々の語り役を演じてきた経験から、今回は指導役を務める岡崎隼也に、台詞のある役を演じることの面白さや難しさについて聞きました!
(左から)山仁 尚、後藤 健太朗、岡崎 隼也
――岡崎さんと後藤さんは「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」のサンチョ・パンサ役などで台詞のある役柄を演じた経験はありますが、山仁さんは昨年の「はじめてのバレエ『白鳥の湖』」(以下「はじめて白鳥」)が初挑戦でした。語り役に選ばれたとき、どんな気持ちになりましたか?
山仁:人前で話すこと自体、初めてだったのでまさか選ばれるとは思わず、びっくりしました。自分がキャラクターの強い役が合うタイプとは思っていなかったので、僕でいいのかなと......。
後藤:僕たちからすれば、そんなに違和感はなかったですけどね。
山仁:普通に誰かとおしゃべりするのと、大勢に向けて話すのとでは全然違うので、しばらくの間どうしたらいいかわからない状態でした。
――語りのリハーサルはどんなふうに進んでいくのですか?
岡崎:舞台監督・技術監督の立川(好治)さんから台本が配られたら、まずそれぞれが台詞を咀嚼する時間があって、そのあとに「どう読みたいか」を立川さんに聞いてもらい、部分ごとに抽出しながら演じ方を模索していきます。立川さんがこだわっている部分は「こうしてほしい」と言ってくださるのですが、8割以上は演者に任されていますね。
後藤:「意味が通っていればいいよ」と言ってくださったので、自分たちで話しやすい言い回しや台詞を提案しながら進めていきました。だから僕と山仁くんでは、意味は同じでも台詞が微妙に違うことがあります。
山仁:台詞の言い方も立川さんに指導していただいています。自分では「ただ読んでいるだけじゃない」と思っていても、受け取る側にはただ読んでいるように聞こえてしまう。自分でも台詞の意味をちゃんと噛み砕いて、頭のなかでイメージしながら話さないと伝わらないんだなと学びました。
後藤:「自分の伝えたいリズムではなく、お客さまが受け取って想像できるように話して」と言われてきたよね。
はじめてのバレエ『白鳥の湖』より photo: Koujiro Yoshikawa
――岡崎さんは今回から語りの指導で入られていますが、どのようなアドバイスを?
岡崎:立川さんがいつも「台詞は戦略を持って話しましょう」とおっしゃるので、僕はみんながその計画を練るのを手伝う役割になれればと思っています。稽古のたびに、それぞれが「こういうふうにしゃべりたいんだろうな」というのが違うので、小さな変化をキャッチしながら「その方向性ならこうしてみたら?」と伝えるようにしたいなと。僕自身がまだプレーヤーでもあるので、指導しながら「そういう話し方もあるんだな」と気づきをたくさんもらっていますね。
――道化の台詞の難しいところはどんなところですか?
岡崎:まず、音楽の尺のなかでしゃべらないといけないことが多い点ですね。あと、道化が自分のことを話す台詞は少なくて、ほとんどが物語や誰かの心情、情景などの説明に充てられているので、切り替えが多いんです。その場の説明をしていたかと思ったら、急にオデットの台詞を代わりに話して、次は王子の台詞......というように、自分で"間"を作って切り替えるのがすごく難しいと思います。
後藤:物語に対して、感情を乗せすぎてしまうと台詞が早くなりがちなので、そのコントロールも難しいですね。 たとえばオデットの「永遠の誓いをしてもらわないといけない」という台詞を説明するとき、感情移入しすぎるとつい台詞が早くなってしまう。だからテンションが上がってきたときほどブレーキをかけて、ちょっと退いた位置に自分を置くことを意識しています。
岡崎:道化の役はお客さまに対して語りかける台詞ですからね。舞台上に別の相手がいて、お互いに話し合う役であれば、相手に合わせて"間"が作れる。でも、お客さまに語りかける場合、その日のお客さまによって"間"が変わってくるので、話したいタイミングで話せないこともあるかと思います。
後藤:(「子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』」の)サンチョ・パンサの場合は、語りかける相手が馬なんです。鳴き声しか発さないですけど(笑)。それでも相手がいれば、まず馬に話して、次にお客さまに語りかけて......と切り替えられますが、道化の場合は聞き手がお客さまだけなので、物語を説明する場面、誰かの心情を語る場面、自分の気持ちを話す場面、それぞれに自分で"間"を作って切り替えないといけない。
山仁:僕はなにしろ去年の初演が初めての演技だったので、まだ"間"の難しさもわからないというか、手探りというか......。
岡崎:たぶん、道化とは違う役を経験するとわかるよ。
山仁:いつかサンチョ・パンサをやってみたいですね。
子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』より、 サンチョ・パンサとロシナンテ photo: Kiyonori Hasegawa
――舞台慣れしている皆さんですが、人前で話すときはやはり緊張するものですか?
一同:めちゃくちゃします(笑)
山仁:まだ道化の語りは2公演しか経験していませんが、普段感じたことのない緊張感があります。
後藤:わかる(笑)。踊りであれば、これまでの経験から「失敗しそうになったらこうすればいい」という対処法をいろいろ持っているんですが、芝居に関してはそういった対処法があまりないので、一度コケたらコケっぱなしになりそう。そういう怖さがあるので、毎回緊張します。
山仁:踊る前であれば緊張したら体を動かすなり、振付を辿るなりすれば落ち着けるけど、演技に関しては台詞を確認しても緊張が解けないです。
後藤:実は先日の札幌公演のとき、ウケてほしいと思っているところで笑いが起きなくて、それに動揺して一瞬、台詞が飛びそうに。頭の中が真っ白になって、次の台詞を探そうとすればするほど出てこなくて、舞台の端から端まで無言で歩いていたら、口から自然と「オデットが」という台詞が出てきました。口から勝手に出てきたのは、たくさん稽古をしていたからだと思います。改めて、稽古って大事ですね......。
岡崎:僕も以前、かなり長い台詞を2週間で覚えて話さないといけないことがあったのですが、ゲネプロで台詞が飛んでしまって。不安なまま本番に入ったせいか、本番中に大噛みをしたことがあります。怖かったですね。
――お客さまの反応で嬉しかったことはありますか?
山仁:第1幕の休憩が終わったあと、客席から登場して語りながら舞台に向かうシーンがあるのですが、お客さまが一斉にこちらを見てくれて、子供向けのヒーローショーに出た気分になれるのが嬉しいです(笑)。
後藤:みなさんが振り向いてくれると嬉しいよね。あと、おちゃらけた役のサンチョ・パンサと比べて、この道化は台詞が真面目で一方的に話すことが多い。僕としてはもっとギャグも言いたいんですけど(笑)。でもその分、説明しているときにお客さまが真剣な顔で聞いていたり、うなずいたりしてくれていると嬉しい気持ちになりますね。
山仁:前回、自分の出番がない日に客席から観ていたら、道化役の健太朗さんが語り始めた途端、客席と舞台の距離が縮まったように感じたんです。客席と舞台を隔てる壁がなくなって、道化とお客さまとでひとつのグループみたいでした。そういう変化が見えたのは面白かったです。
後藤:僕らが話しているときは客電(客席の照明)が明るくなって、語り終えると暗くなるから、そこで空気が切り替わるよね。あと、僕は初めてバレエを観た方から「これまでバレエは鑑賞中に笑ってはいけないと思っていた」とお話をされたことがあります。「はじめて白鳥」を観て、笑ったり泣いたり、反応していただけたなら嬉しいです。
はじめてのバレエ『白鳥の湖』より photo: Koujiro Yoshikawa
――今年は「はじめて白鳥」で全国各地を回られます。これからトライしたいことや工夫したいことを教えてください。
山仁:僕は前回が初挑戦で、リハーサルでやってきたことを本番で出すだけで精一杯でしたが、これからは一方的に演じるのではなく、お客さまの反応や空気を感じながら変化をつけていきたいです。
後藤:地域ごとにお客さまの反応がまったく違うので、僕もそこを楽しみながら演じたいですね。あとは立川さんからも言われていますが、もうひとつ上のステージに行きたい。「ひとりのダンサーがうまく台詞をしゃべっている」状態を飛び越えていきたいんです。そのためにも、ただ文字が流れてくるのではなく、僕が発した言葉を聞いたらお客さまの頭のなかでイメージがふくらむような台詞を言えるようになりたいと思っています。
――最後に「はじめて白鳥」ならではの面白いポイントや見どころをお聞かせください。
山仁:このバージョンは道化が4人もいてカラフルなんですよね! 4人でわちゃわちゃしているので、子どもたちにとって親しみやすい存在だと思います。
後藤:道化は(団長の斎藤)友佳理さんから、それぞれのキャストごとにキャラクターを変えて、個性を爆発させていいと言われていて。ポーズも人によって違うところがあるので、ぜひキャストごとに見比べていただけたら。
岡崎:東京バレエ団はちょうど9月にブルメイステル版の『白鳥の湖』を上演するので、もし両方観ていただけたら違いを楽しめると思います。とくに黒鳥オディールの出てくる場面は振付も構成もだいぶ違うので面白いですよ! あと「はじめて白鳥」はコンパクトにできているので、映画を観に行く感覚でいらしていただきたいですね。